たからもの
本編です。ここのところ本当に寒くて嫌になります。
「あのねえ、四千年前でも末裔なんだよ?考えてもみたまえ。今じゃ血が薄すぎて触媒になんかなりやしない。それに君がいなくても、使えるんだとしても、触媒は足りるんだ」
その言葉に眼前の光景の意味を知る。思わず目をそらしたのを彼女は笑った。
「これだけあれば充分だろ?」
それらは瓶詰めされた肉の塊だったり、瓶に押し込められた光沢のある繊維状のものだったりした。思わず口元に手をやった。吐き気がする。それが何なのか分かった。
「腫瘍って言うじゃん、あれだよ。普通すぐに燃やしちゃうんだけど、魔導師の体の一部って何かと使えるからね。取っておいたんだ。それから、抜けた髪。本当にごっそり抜けちゃうんだもん。
「くふっ……こっちは爪だよ。割れたり、剥がれたりいろいろだね。剥がれたといえば、皮膚なんてのもあるよ。さすがに壊死した組織なんかは燃やして灰にしちまってるけど。その灰も一応あるよ、見るかい?」
誰のものか、誰だったのかなんて聞く必要もなかった。実存だ。彼の絶望や悲嘆、苦痛までもが伝わってくるような気がしてユングは顔を背けた。朝食をとっていなかったことを幸運にさえ思った。
「ていうかね、わざわざこんなことしなくても触媒はあるから。これは別のことに使うから」
「べ、つ?」
言いながら身を翻しこっそり実存に背を向ける。バレてるだろうなと思った。イルマにではない。『彼に』。
「うん。君も食べたろう?アンラッキードラゴン」
電波塔に突っ込んだ残念な最強の生物にして、大味な空のお肉。肉屋でナゲットにされたりもしているが、あの巨体だ。スープを取った後のガラだけでも十分すぎる。しかも召喚対象の実子。
なるほど……とユングは黙り込んだ。イルマはジト目でこっちを見ている。ぐうの音も出ない。
「君さ、ちょっと自意識過剰なんだよ」
「うぐっ」止めを刺された。言い返せない。「でも、先生が捨て駒扱いなことに変わりはないじゃないですかあ!奴らがほしいのはデータなんですよ!先生が死のうがどうしようが構わないんです!」
イルマはクソデカいため息をついた。来た道を引き返す。さっさと工房を出ていく。待ってくださいよう。敵地に置いていかないでえ。ユングは急いで後を追った。
「だから、その理屈はおかしいんだって」
昼ご飯の献立を考えるために橙頁を開いて、再びそう言った。栗色の髪を苛立たしげにいじる。
「あのさぁ……君、自分が何言ってるかわかってるかい?」
「え?」
わかってなさそうだ。本当にどうしようもないな、と呟いてイルマは紙とペンを用意した。
「君の主張を根拠ごとに否定してやるよ。さあ、言ったことを繰り返して」
「先生が捨て駒扱いなことに変わりはないじゃないですかあ!奴らがほしいのはデータなんですよ!先生が死のうがどうしようが構わないんです!」
一言一句たがわず、ユングはそう言った。
死体のご利用は計画的に。