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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
死と乙女
375/398

恋だの愛だの

 わかりません。本編です。

 リリアが思い出したように裁判の話題を出したのは朝食の雑炊を作っているときだった。

 真実思い出したのだろう。フィリフェルの人は研究第一なところがあるから、よく大事なことを忘れる。なるほどイルマとメイリンの存在はそそったことだろう。

「裁判は何も問題ないわ。不起訴なのがおかしいくらいだもの、これで負けたらへそで茶でも沸かすわよ」

 そりゃどうも。さりげなくメイリンの分を別に取っておく。彼女は今日は出ていない。昨日のことがあるからだろう。その場で殺し合いを始めかねない。

「特に来なきゃいけない用事もないわ。安心して賠償金を待ってなさい」

 ソファで毛布にくるまって寝ていた助手はこんな日に限って早起きだった。疲れも見せず雑炊だ雑炊だと一人盛り上がっている。永く眠っていればいいのに。

「懲役とか、捕まえておくことはできないし、近づかないよう勧告したとしても彼女あれだけど……その場合の対処はあなたのほうがよく知ってると思うわ」

「まあねえ。せいぜいバレないようにやるさ」ちらと問題なカップルの彼氏のほうを見た。ちょっと気を遣うか。「殺しゃしないよ。勝手に死ぬかもしれないけど」

 イルマはまだ別れ話をしてないようだから別れてないんだろうと勝手に解釈している。ユングと例の彼女、ザビーナのことである。

 だが普通に考えたらあんな事件を起こした時点で関係性など雲散霧消のはずである。いくら好きでもやっていけない。しかしイルマはそれがわからない。恋愛方面は実存の魔導師痛恨のミスというか何というか、イマイチなのである。

 まず、彼がまともに話せたのはイルマが十一歳のころだ。恋だの愛だの言いだす年齢ではない。イルマとしては師には親愛や敬愛や性愛の混じった重い思いを抱えていたが、彼はあえて恋愛についてはあまり触れないようにしてきた。

 一つ目にはただ単純に嫁・イルマはお断りだったからである。タイプかどうかで言えばそりゃあタイプじゃないんだが、ししょーにとってはそれ以前の問題だった。

 世間一般に、「あたしお父さんのお嫁さんになる」と言う女児はいても「俺は娘を嫁にする」と言い出す父親はいない。彼はイルマの挙動をこの「あたしお父さんのお嫁さんになる」現象として見ていたのだ。

 そしてもう一つ、無理やり矯正というか洗脳した反動だろうと。だからその情動を恋愛と結びつけるのは良くないと考えたのだ。

 二つ目に、極力普通の子と同じように発達していってほしかったということ。サイコパスをジェノサイダーが矯正しようとしている時点でどうしようもないのだが、それでも魔導師は少女を『普通』に育てようとした。

 つまり、イルマが成長する途中で自分で見つけてくるように仕向けたかったのだ。そして計画を実行する前に精神が完全に壊れた。精神力を過信したが故の計画倒れである。

 とはいってもイルマは恋愛を含め、人の思いを知ろうとするように調整済みなので多少遅れようともそれを手に入れる見込みだ。

 途中で間違って腐った知識を手にしているが、腐女子くらいは個性として許されるだろうと実存は思った。その道からでも共感はできないが理解はできる程度の御仁と出会って『普通』の恋愛ができるだろうと。

 とりあえずここまで読んで問題なさそうだと思ったと思う。だったら苦労しないのである。失敗の理由はもう一つある。

 何を隠そう実存自身の恋愛観がイカれていたという理由である。たとえば恋愛の構成要素を彼に聞いたとしよう。間違いなく『金!暴力!セッ〇ス!』と答える。

 男とはATMに他ならないし女とは産む機械である。男と女は竿と袋だ。恋と麻薬は似ている。得どころか損しかしないのに一時の快楽と依存性のために見境なく行われる相互オナニーだ。

 そればかりか途中でうっかり子供とか作って人生を縛られる。女としては子育てなんかよりしたかったことも山ほどあろう。男だってただ子供が生まれたというだけの理由で貢ぎたくはないに決まっている。

 恋愛と繁殖は別口であるべきだ。惚れた腫れたなんて理由ではなくて互いの生活能力等々をよくよく検討して子供を作るべきだろう。

 そして検討の結果そんな相手はいなかったというのが彼の恋愛遍歴だ。さらに、この百害あって一利なしと言える恋愛をもひとつの『普通』ととらえて経験はしておくべきとしているのである。どうしようもない男だ。

 だから、少なくとも恋愛観だけはまともなユングはこわごわこう言った。

「何で僕を見るんですか……」

「だって君の彼女だし」

「いやもう違いますよ」違うの?無垢ではないかもしれないけどいたいけな瞳がユングを見返した。うっ。なぜか後ろめたい。「違……くはないけど、その、ちょっともう。僕としては……さすがに」

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