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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
恋は盲目
357/398

最初から必殺技

 回想に入ります。

「極大魔法とは、何だと思う」

 魔法を覚え始めたころだ。背後から師が唐突に問いかけてきた。え、何かって、と考えかけて思い直す。しまった。素早く銃を抜いて振り向きざまに構え、相手の鼻先に銃口を向けた。幼女の手には少し重い。

「10秒」銃を向けられた魔導師は重たく息を吐いて、じろりとイルマを睨んだ。「遅い。俺が背後に立った時点で警戒、声がしたら撃てと教えたはずだが」

 それと、と身を屈め、銃を握る少女の手を両手で挟む。小指がするりと引き金のところに入った。そのままぐりっとイルマの指を上から押す。

「わっ」

 弾は出なかった。もちろん空砲なのだが、原因はそこではない。引き金は引かれなかったのだ。

「安全装置を外さないでどうやって俺の顔面に鉛玉をぶち込むつもりだ?それもこの前教えたと思うぞ」

「ご、ごめんてば」

 撃っちゃったかと思った。血の気が引く感覚を味わいながら銃をしまう。男は両手を体側へ下ろして澄んだ藤色の両目でじっとこちらを見ている。直接的な叱られ方は特にされていないが、きつく叱られたように縮こまる。

「まあいいとしよう」

「いいの!?」

 がばっと顔を上げた。うん、と師が頷く。

「銃を持ってまだ三日目だからな。そんなもんだろう」

「怒られるかと思ったよ!ししょーまぎらわしいだっ!?」

 頭の正中線にチョップが入った。怒ってなくはないらしい。ぎゃ、虐待だー。

「それはいいとして……どう思う?」

「何を?」実存の魔導師は静かに右手を挙げた。とっさに頭をかばう。「あっ、も、もうチョップは、チョップは別に要らないんだからね。別にその、何にも思いついてないとかそんなことはないんだからね。CM挟んですぐ当意即妙だからねォブッ」

 下ろしたままの左でお腹をぽよんと小突かれて尻もちをつく。魔導師からは真実そんな力加減だし、イルマも自分のお腹からぽよんというかぼよんというかどぽんというかそんな水っぽい音がしたのを聞いたからそれで間違いない。

「う……うぁ……ご……うぼ……」

 意訳、ボディーブローとは意外ですね。

 今にして思うと単に頭がガードされたから違うほうを狙っただけである。お腹を抱えてしばらく痙攣する羽目になった。

「うん?ちょっと力を籠めすぎたか……頑張って耐えろー川は渡るなーひっひっふー」

 魔導師は駅前で配っていそうなちゃちなプラスチックのメガホンを口元に当てて応援らしきことを始めた。悶絶しながらもイルマはじろりとそれを睨む。

 どこから出たんだ、そのメガホン。側面に「欲しがりません勝つまでは」とか書いてるけどどこで買ったんだ。いやそれよりやりすぎたと思うなら回復魔法とか手当とかしてほしいものである。

 男の声は何の励ましにもならなかったが、持ち前のしぶとさがある。やがてイルマは復活した。師はロッキングチェアでのんびりとくつろいでいた。何だろう、世の理不尽を感じる。

「あのさー……強くはないけどししょーが殺せる魔導師になるのに銃ってホントに関係あるのかい?」

「あるとも」

 即答された。ししょーがそう言うんならそうなんだろうけど納得いかない。そんなイルマの顔をちらっと見て、師はもう一度口を開いた。

「なあ、極大魔法とは何だと思う」

 イルマは顔をしかめた。

「うえ、戻ってきた」

「ゲロが?」

「違うよ」

 男はゆったりとしたしぐさで階段のほうを指さした。白魚のような指である。しかし指さす先が問題だ。

「トイレに行け」

「違うって言ってんじゃん!」

 戻ってきたのは話題のほうだ。さっさとこれを思いついていれば腹パンを食らうこともなかったのにと思うと無性に悔しい。いーっと奥歯を噛みしめながら答えた。

「一番すごい魔法だろ。必殺技みたいな」

「ふーん」

 何とも困る反応だった。回答を支持するでも否定するでもない、ただ受け流すだけ。正解は別にあるとでも言いたげな、そう、いつかの「それはあなたの感想ですよね」みたいな雰囲気だった。

「では俺の極大魔法は何だと思う?」

 イルマは考えた。師は今度は右足を引いて少し腰を浮かせた。踵落としと予想。新たなる攻撃が降ってくる前に口を開く。

「……常識的に考えれば消具なんだろうけどそれは違うって言いそうな顔だね」

「貴様、さてはニュータイプか」

「顔。ししょー鏡見よう?けっこう顔に出てるから」

 ほんの少し馬鹿な会話をして、本題へ戻る。師は立ち上がって、耳かきを取り出すとソファに座った。ティッシュを広げる。

 次回、「最初から必殺技 2」。

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