限界突破
本編です。ゆっくりやっていきましょう。
太陽かあ、太陽は簡単だよとどこか他人事のようにブラムは言った。相変わらず上品な笑みがその顔に貼りついている。
「きっと体内の魔物が紫外線や赤外線を苦手としているんだろうね。太陽光を浴びると魔物が死ぬんだけど、その時にある化学物質を放出する。空気に触れて死ぬときはこれがないから光を浴びて変質するんだろう。この化学物質があれば昼間の気温で十分、自然発火が起こって体が燃え尽きる」
笑みを引きつらせる。窓のほうの頬にケロイドができ始めていた。ブラインドが下げてあってももうそろそろ限界が近づいている。
「光を弱めてあれば、高められた回復力でこのくらいに抑えられる。これは後で血をもらって治すとして……もう一度言うよ。吾輩、実は人間なんだ」
「じゃあ私は病人を追いかけまわして殺しまくっていたとでも言うのか!?」
とうとうセバスチャンが叫んだ。
「そうだよ」
「なら正義とはいったい何だったんだ!?」
「知らないよ。吾輩にわかるのは、今お前が死んでて吾輩が生きてることだけさ」
ぐうう、と呻いてセバスチャンは頭を抱えた。
「そうだ、結局私は何で死んだんだ」
「遺族の皆さん含む領民の過半数に『あいつけしからん絶対に殺せ』って言われたから。あと個人的に死ねばいいと思って」
こうして時空を超えた話し合いは終了した。しかし、しかしである。ユングはイルマに聞いてみた。
「先生、ここまでわかってたんですか?」
「ううん。知らないよ。私がしてほしかったのは『吸血鬼は危ないものじゃない』って説明してもらうことだけさ。方法はお任せしたけどね」
まさかあんな新事実が明かされるなんて。とんだ爆弾だった。やれやれ……予想の付かない人だ。
ため息をつくと、何かが倒れる重い音がした。ばっと振り向く。人が倒れてる!床の上にぐったり伸びている銀髪の吸血鬼をゆする。
「ぶ、ブラムさん?どうしたの?おなか減った?むっ」
むちむちほっぺに手指がめり込んだ。むっ、むうっ。ぐりぐり頬肉が動かされる。
「うう……」イルマの顔を嫌そうにぐりぐり押しやりながら、ブラムは言った。うわごとである。「く、くさい……」
ああそっか。口臭だね。ニンニクばっかり食べさせられてたからね。それにこのお屋敷ニンニク塗れだね。限界だったんだね。深く納得した。
それにしても、セバスチャンは死んでもばっちり吸血鬼ハンターだな。一芸に秀でるってすごい。あと、ぐったりしている人は何となくししょーを思い出す。だから何ということもないけど。
「じゃなくて!しっかりしてよ!ユング、社長さんたちに換気と消臭お願いして!行け!」
「はっはいっ」
ユングが走り出したところで、再びブラムの状態を確認する。ぐったりしている。それくらいしかわからない。医学的な方面はあまり詳しくない。
心臓マッサージは『地獄へ道連れ』って曲のリズムに合わせてやるといいってことくらいしかわからない。でもブラムさん心臓は動いてるし一応呼吸もしてるよ!ガス中毒みたいなもんだと思えばいいのか?
とりあえず嘔吐した場合に吐瀉物が気管をふさがないように横向きの姿勢に寝かせる。うーん、ブラムさんの場合、吐瀉物って血になるのかな?内臓が出血してるのか単に消化前のが出て来たのかわからないぞ。やばくないこれ。
胃腸関連の病気が劇症化しやすいとは聞いていたがこういうことか。気づかないのだ。
窓からの光が届かない、できる限り日陰へ引きずって、頭側と足側に一脚ずつ椅子を置き(セバスチャンにはどいてもらった)、日よけのために、つけている黒マントを脱いでテント代わりに掛ける。重たい鎧を緩めて呼吸を楽に。
テント内に置き型消臭剤を配置。扉と窓を全開にして換気をする。夜になれば外へ運び出せるし、あとは血液の摂取と持ち前の回復力で此岸へ戻ってくれるだろう。というか、そうしてくれねばイルマが大損だ。