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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
雪片舞う
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二騎士

 本編です。まさかの、ですね。

「出でよ、地獄の住人。セバスチャン!」

 現れたのはまた……騎士だった。いや、騎乗はしていないから従士かもしれない。ただ鎧兜がどう見ても騎士のそれだ。ブラムが着ているものと形状が似ている。時代が近いのだろう。

「わー!すっごーい!」

 喜ぶお坊ちゃまをそれとなく両親のほうへ追いやる。

 ブラムはとても小さい子に見せられるような目つきをしていなかった。何らかの関係はあるだろうと踏んでいたけども、というか、セバスチャンはボルキイの吸血鬼ハンターで200年位前にブラムに殺された人なんだけども、何だあの悲しみと憎しみの入り混じった視線。

「息子さんは魔法使いとして覚醒してたんです。死霊術適性は男の子には珍しいけど、決してなくはないことです。不完全とはいえ最初から死者が喚べるのはすごいので、できたらどこかで魔法を学ばせてあげてくださいね」

 他の魔導師たちが言わなかった理由はわかる。死霊術自体廃れた学問でよく知っている人がいなかったのか、ニンニクで胃腸と精神がボロボロで思い至らなかったか、他の誰かが言うだろうと思って言わなかったか。

 どれにしても今言ったんだからいいだろう。振り向こうとするお坊ちゃまをそれとなく遮り、覗き込んで言う。

「セバスチャン借りるね。ちょっと待ってて」

「わかった!」

 騎士二人を屋敷の一室へ案内する途中、ユングが思い出したように言った。

「あのあの、セバスチャンさんってこの前の襲撃の時、この辺で僕と会いませんでしたか?」

 例の見えないヤツの話か。確かに、不完全に召喚されたセバスチャンはほとんど霊体だった。まず常人の目には映らないし、ラリラリモードのユングならギリギリ感じ取れないこともないバランスである。

「いいや。私はずっと坊ちゃまについていた」

「えっ、じゃああの時の見えない奴は一体……!?まさか本当に幽霊が」

 さあっとユングが青ざめる。バイザーの向こう側でも十分、セバスチャンが顔をしかめているのがわかった。ただ、ユングがウザいからではない。

「知らないよ。幽霊なんぞ……縁起でもない」

 地獄の住人も気味悪がるんだね。見えない奴が何者か、イルマはわかっていたがわざわざ言う気にはなれなかった。

 さて、本筋に戻ろう。

 用意されたこの部屋は北向きで日当たりが悪い。さらにブラインドを下げてある。ブラムは日焼け止めで灰にはならないとはいえ、日光に当たりすぎると皮膚がやられてしまうためだ。さらにさらに、もしここで喧嘩が始まっても大丈夫なように数々の防御策を巡らせてある。

 いつもなら教授はほんのり無理やりの香りがする微妙な『吸血鬼っぽい口調』でわいわい気さくに話しているのに、甲冑のせいだろうか、険しい顔のまま一言も何も言わない。これじゃあとてもブラム教授なんて呼べない。

 ブラム公、だ。

「えー、一応この部屋には防護措置があるけど、私とユングも立ち会うからね……ブラムさんニンニク平気なのかい?」

「全然。絶好調だよ、吐きそうなくらい」重症だった。あまり無理しないでね!無香料タイプの消臭剤の封を切る。「ふふ、ありがと。……ね、セバスちゃん。兜取ってよ。お話ししよう?」

 兜の中身は意外にもふつうのおじさんだった。何も言わないでじっとブラムを睨んでいる。

「そんなに睨まなくても。吾輩何にもしないよ……200年前だって、お前の要望通りに、昼日中に、決闘したでしょ」

「198年前だ」

「そう、そうだっけね。あの日、吾輩は初めて『悲しまずに』人を殺した」

 そしてまた吸血鬼は黙り込んだ。長い沈黙だった。次に口を開いたのは死者のほうだ。

「ふん、爵位と領地で騎士ぶってもやはり魔物か。人間を害したがる」

「それは城でお茶くみしてた女の子にひどいことをしたお前のほうじゃない?あの子が自殺するまでわからなかった吾輩も吾輩なんだけどね。ああ、それとね」

 ブラムはゆっくりと息を吸って、吐いた。

 嗅覚の鋭い吸血鬼にとって、強い臭気は毒ガスとほぼ同じである。こんなニンニク屋敷はまさしく、アウシュビッツかどこかのガス室だった。そこで深呼吸をした。室内を満たす毒ガスを胸いっぱいに吸い込んだのだ。椅子ごと倒れてショック死してもおかしくない。

「吾輩、実は人間だって言ったら笑う?」

 しかし、顔色が悪いのはどうもニンニクのせいだけではないようだった。引きつった笑みでセバスチャンの返答を待つ。セバスチャンは困惑を隠そうともせず叫ぶ。

「馬鹿な!何を言っている!?」

 対して立会人であるイルマの中には、ああそういうことか、というある種の納得が生まれていた。ブラムの研究は生物学で、おいしい血の研究が中心だ。

 食物について調べるなら当然、捕食者についても調べるだろう。そして、衝撃的でもある。少なくとも当事者を青ざめさせる程度には。

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