狂気キャラ 正気になったら 弱くなる
本編です。
警報が鳴ったのは深夜のことだった。当然、イルマ×ユングコンビはシフト外で睡眠をとっていた。そこを叩き起こされたことになるが、襲撃者の意に反しコンディションが悪いとは決して言えない。
警護とは常に守る側よりも攻める側に有利があるものだ。イルマはそう考える。かつての師から学んだように考える。
準備や装備が万全の場合、攻める側はいつでも仕掛けられる。相手の手札を知りやすいのもこちらだ。
地の利は攻め手受け手両方が外からくる現代ではさほど干渉しないとみていい。侵入者が動けない結界は居住者も動けない結界だ。そんなものをかけるのは現実的ではない。
一方守る側は四六時中いつでも奇襲に備えねばならない。策を練る?残念ながら三次元に一騎当千の万能軍師はいない。守る対象を離れるわけにはいかないため自ら打って出ることもない。また相手を知らない。
もちろん向こうが「これこれこのメンツで貴様を殺す」などと言ってきた場合は別である。お前を殺すって言ったら殺さない法則だ。
だが実際にはそんなことしてくれる襲撃者はいない。今回ならネットの掲示板。人数も内容も規模もわからないのだ。
つまり守る側は何人いるかもわからないいつ来るかもわからない攻め手に備えねばならないのに対し、攻める側は調査も可能で準備や装備を整えてしまえばいつでも任意のタイミングで一人だけ殺せばそれで仕事が終わるのだ。
ために、深夜一時という時刻にもかかわらずイルマは欠伸ひとつせず身を起こした。この程度想定外でもなんでもない。
装備を確認していく。杖はいらないよね。狭いからかえって邪魔。今日は軽装だ。ワイヤーはあんなに要らない。だってこっそり絨毯の下とかに張り巡らせておいたから、今から広げなくても攻防一体の便利な武器だ。
室内であのモビルスーツみたいな肩当はつけられない。ビットもといツバメやスズメも室内では飛んでいるほうが不自然だからあまり意味がない。夜だから蝙蝠かフクロウになるし、もっと不自然だ。ハエとかでゾンビ作れないかなーと研究してはいるが道はまだ先が長い。
ついでに、膝の鉄板も実は見せかけである。むしろあんなのが防具になると思うかと言いたい。膝蹴りの時は役に立つのかな?
うむ、のんびりのんびり。急ぐことよりも確実なことのほうが大事である。慌てて出ていけばそれはそれでカモだ。なに、今シフトのコンビが依頼者家族は守ってくれる。
同じ部屋を仮眠室として与えられ、隣の仮設ベッドで眠っていたユングの姿はとうになかった。戦いを好み戦いのために生きる魔族の本能が彼を揺り起こした。今頃、敵に向けて全速力で走っているだろう。糸の振動から感じ取る。
護衛だとか仕事だとかそういうものは頭から飛んでいるに違いない。そこは心配だが、室内という環境下ではユングに接近戦を挑むほかない。ならば問題ないはずだ。
――いや、あるか。
奴が冷静になったら……。
「銃なぁ……時々要らんとこに当てるんだよねえ」
敵を前にして極限まで研ぎ澄まされたユングの第六感は容易に自らを侵入者のほど近くまで運んだ。だがすぐに足を止めてしまう。
(今、何かが隣を通り抜けた)
それも人間大の何かだ。
まさか熱視覚にも映らない人間がいようとも思えないが、その状況から彼はそれを敵と認識した。視覚も嗅覚も聴覚も捉えられず、微かな皮膚感覚のみが知らせる存在。
何をどうしているのかは知らないが実際に状況が発生しているのだから方法があるに違いない。ユングだって一時的に存在感が薄くなる魔法くらいは知っている。それと何かの合わせ技か?詳しく何なのかはわからないが、大体あたりをつける。
この相手は相性が悪い。自分とも、イルマとも。ここでの戦闘を逃したとしても伝えるべきと判断し、そのように動く。
彼の失敗は三つ。
まず、見えない何者かを警戒したこと。それは敵ではない。特に危害を与えない干渉しない存在だ。本来ユングが感じ取ることのできるものではなかった。この時は例外だ。
次に、自分の中の衝動を支配する術を知ってしまっていたこと。もし、以前のように理性を飛ばして突っ込んでいれば見えないものに気づかなくて済んだ。そして、この場合には彼はそれが一番よかった。
最後のひとつは……。これのせいで、ユングはイルマに銃口を向けられることになる。
「さあて皆さん次回からはお待ちかねのバトルパートが始まるわよ!
「でもねー、ホント、なんていうか全体的に地味なのよね。壮大な読みあい合戦が始まると思ってくれたらいいわ。アタシだったらこう、ダーッと行ってバーッと、そんでズッキューンのシュパッとドンなんだけどね、あの子にそんな実力ないからね。
「そう深く期待しないで、肩の力を抜いて読んでいただきたいわ。
「次回、『大白蓮』。更新時刻なんかわからないわ!さあて次回も、サービスサービスっ。
「え?アタシの名前?うーん……セブンスでいいわよ。どうせ、もう出番ないし」
――実存の魔導師(7th)