龍母、来襲
休み前ってどきが胸胸しますね。つい筆がのります。
「で、おばさんの勘違いなんですが、僕もまだいくつか仮説の部分がありまして。少し質問に答えていただけますか?」
「はい。何なりとお聞きください、雑種様」
よく考えたらドラゴンに敬語は似合わないような気もするが、ここまで書いたし、この失礼なんだか丁寧なんだかわからない敬語を貫いていきたい。上位種にも気遣いって必要だと思うんだ。そういうことで、よろしく。
「お子さんが戦死なさったのは街中ですか?」
「はい」
肯定!正直、ユングは面食らった。いきなり当たりだ。たった二問で終わっていいのか?しかし長引かせると面倒な気配がする。仕方ない。終わらせよう。意を決する。
「ひょっとしてあなたの息子さん、商店街で売られてます?」
「……屈辱ながらッ……その通りでございます!」
やはり電波塔に突っ込んでいたか。ユングは遠い目をした。イルマが復活する。
「ちょっと待って、私そいつ殺してないんだけど」
あいつは勝手に死んだけど、そう言うとおばちゃんが露骨に動揺を見せた。街中飛んでて電波塔にぶつかるのがそんなに珍しいか、金ぴかドラゴン。いや、珍しいか。珍しいな。
「そうなんです。先生が殺したわけではありません」
「で、では誰が!?まさかあなたが!?ないと思うけど!」
違いますけど。しょぼんと眉毛を下げたユングに少しだけ溜飲が下がる。こういう状況でなかったらきっと、この人とお友達になれるだろう。敵じゃなくてな。でも息子さん取って食った時点で無理か。やれやれ。
「息子さんが電波塔へ突っ込んできたとき、僕らすぐに避難したんです。下敷きにされたくないんで」
「ええ、それはそうでしょう。矮小なる人間や誇りを捨てた雑種は我々の爪がかすっただけで死ぬか弱きものですから」
よくよく聞くとさっきから発言がおかしいなあ。人間としては怒ったほうがいいんだろうか?ユングの時も似たようなことを考えたが、あの時は結局結論が出なかった。
はてドラゴンからするとイルマは一体何なのだろう。魔神からするとミドリムシくらいだったけど、一応アレよりは落ちるよなあ。だいぶ。むーん。せめてハムスターくらいの地位には居たいものである。
ここでイルマは、あることに気づいた。
「でも人間は知性に欠けて無能な代わりに繁殖するのが非常に早いものです。もう復興されていましたが、あの街の半分くらいは消し去ったのでしょう?」
この龍の言葉は上から目線が激しいが、決して軽蔑を感じない。そのようにあるものをそのように言い表しているだけだ。
「いいえ。電波塔とその下のちっさな公園だけです。あの時、息子さんはもう動けるような状態じゃありませんでした」
「では、誰が?」
ドラゴン母が初めて落胆の表情を見せた。息子の死に落胆。決しておかしなことではない。どうして新鮮に思えるのだろう。
「特定の誰かということはないと思います。魔界を出る時点で傷を負っていて、大移動のほかの魔物たちに狙い撃ちされたのではないでしょうか」
「とどめはどなたが?」
「しいて言うなら肉屋のおじさんじゃあないでしょうか。僕らが触ったのは料理としての解体作業です。助かりっこないし、もはや動けもしないようでしたから」
正直生きてるのか死んでるのか考えもしませんでしたから。あっけらかんと言う。おいおい正直に言いすぎだよ。イルマは杖でユングの尻ではなく踵を小突いた。
アンラッキードラゴンマムが修羅に目覚めたらどうする?街どころか国が消えるぞ。私は守らないからな。