Departure!
突然のことで恐縮ですが大地を踏みしめて目覚めてください。本編です。ありんこ?ありんこですか?連日のバイトはきついってことに最近気が付きました。
三日後の夕刻には二人はガヌアに向かうべく目と鼻の先の最寄駅へ出発した。向こうへ着くのは明日の早朝だ。でも寝台車なんか邪道だね。
本日も我らが最寄駅は鳩塗れである。多くはドバトという灰色のコだが、山が近いからか、茶色いコもいる。お尻がぷりぷりしていてエロい。しかももふもふとか最強ではないか。
何かで駅に鳩が多いのはかつての生活環境に似ているからとか何とか聞いたような気がするがどうだったろうか。何にせよ下から見上げた時の彼らの肢体のエロスはいつ糞が降ってくるかわからないドキドキも相まってすさまじい。吊り橋効果ってやつ。
ここから新幹線だが、ちょっと向こうは新幹線の駅から遠いので途中で急行に乗り換える必要がある。深夜のこととなる。寝ぼけて乗り間違いでもしようものなら早めに気づいて仕事先へ一報が必要となる。特急料金?知らない子ですね。
せっかくなので駅弁を買っていくことにした。旅の彩りだ。ホームでは買わない。あまり利用したこともない。駅ナカだ。しばらくニンニク料理地獄に落とされるのだからこのくらいの贅沢はしてもよかろう。
よーし、今回は柿の葉寿司、君に決めたっ。
柿の葉寿司、日本のものと特に変わりないので説明不要かと思うが、あえて説明するならば柿という植物の葉で薄切りにした魚の塩漬けと白米を包む押し寿司の一種である。
葉っぱは食べないが、これで巻いてあることによりお箸を使わなくても食すことができる。味だってついているから醤油とかわさびとかは絞る必要がない。結構お手軽なのだ。
この世界では本来アールン県の特産品であるが人気が高く、帝都含め、コルヌタの中心部あたりならどこの駅にも売っている。昔はサバしかなかったが、イルマが生まれるころにシャケが追加された。最近ではタイやら大根やらエビやらアジやらウナギまであるんだそうだ。
さあ、伝統と信頼のサバか。定番になりつつあるシャケか。それとも革新と未知数に駆けるか。盛り合わせならサバアンドシャケの二色、ウナギと大根、タイアジエビトリオのどれかである。
期間限定あんころ餅も捨てがたいがこれは主食じゃない、デザートかおやつだ。ていうか邪道な気がする。駅ナカ屋台のおばちゃんはただにこにこ笑っている。迷うところだ。
師ならどうするだろう。
ししょーなら試食という名の貢ぎ物をもらってから判断するなぁ。大体「もう満腹だからいらん」になるけど。うん、とことん参考にならないおっさんだ。
お年を召した我が家の冷蔵庫みたいにむーむーと唸りながら物色する。隣でユングも一緒にこっちを見ていた。
ひょっとしてお前も柿の葉寿司か。そうなのか。だとしたら先に相手が何を買う予定か聞いて、それじゃないやつを買って、あとでトレードしながら食べればかなりの種類を網羅できる。やーりい。
「ユング何にするー?」
「え、お弁当作ってきてないんですか?今現金ないんですけど」
何をこんなに当たり前のように言っているんだ、こいつは?イルマは自分が食べる予定もないのに他人の分だけいつの間にか作ってやるほど暇でも心優しくもない。
大体いるなら書いておけとあれほど言ったのに……今日に関しては書いてても、作ったかどうか怪しいが。
「作ってるわけないじゃん。私は今日駅弁を食べるんだよ?そこにATMあるから下ろしてきな」
「えーそんなぁ」
眉毛を思いっきり下げてブチクサ言いながらATMに向かう後姿はじつにしょぼくれていた。いくらか下ろして、てくてくと戻ってくる。いまだに納得のいかない様子である。
「駅弁食べたくないのかい君は」
「はい。前に食べた山掛けソバ、最初はおいしかったのにすぐ飽きちゃったんです」
「最初の一口が一番おいしいってやつだね。そういうもんだけど、まったく難儀な」
海と川はダメ、駅弁も食べない。一緒に出掛けても全然面白くないヤツだ。
とりあえずいろんな味があるから~などと説き伏せて柿の葉寿司を買わせることに成功した。新幹線に乗るが、どうもまだ上の空である。見るべき景色にしたって夕日さんが頑張っているからカーテンの向こうだ。あきれ果てたイルマはついに禁断の質問をしてしまった。
「ったく、こんなんで彼女さんとうまくやっていけてるのかい?」