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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
守ることとは
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香辛料が攻めてくる

 おかげさまで外伝を放出する前に本編を書き溜めることができました。でもやはり忙しい感じです。これからは今までよりペースを落として書いていきます。

 一応、完結のイメージはついてます。

 は?今なんて?深く考えるより先に古紙回収車が来た。

 新聞紙とかを渡すと2カウロくらいくれる。週に一回来るか来ないかだ。逃がすわけにはいかない。カミュに一言断って大急ぎで古新聞の束を持っていく。

 今回は4カウロ。結構もらえた。小銭をちゃりちゃり言わせながら何と言っていたか思い出す。

 お化けって言ってたか。

 察するにそれが脱落者に大きくかかわっているのだろう。つまり、夜中に墓石の下なり井戸の底なり、しかるべきところから這い出した人生の先輩にあんなことやこんなことをされて脱落したとそういうことだろうか。野獣なんだな、お化け。

 ばかばかしい話である。この文明の時代に、いうに事欠いてお化け?心霊現象など故人の残留思念か生者の所業か勘違いと断じられてもう長いのに?

「あっ」

 わかった。きっと深夜にお屋敷を全裸で徘徊する変態おじさんが出現するんだ。なら撃っても大丈夫だね。人間狩りとしゃれこもう。

「ごめんねカミュさん、話の腰を折っちゃったね」

「別にいいぜ。古紙回収週一しか来ないんだろ」

 おお、やはりこの人はわかっている。伊達にししょーの親友をしていない!

「ありがとね。ってことで、その野獣先輩をトロフィーにしてポリボックスに進呈したらおいくらなのか、話を進めてくれたまえ」

 さっき同様ジョークを交えて発言したつもりだったが、カミュは目を剝いた。頑張ったけど滑ったみたいだ。

「お、おい、俺がいつそんな話したよ!?」

「さっき。深夜にレイパーおじさんが徘徊するんだよね?」

「なんじゃそりゃ!?俺が出るって言ったのはお化けだぜ。そんな変態は出ねえよたぶん」

 どうやら見当違いな予想を立てていたようだ。真面目に聞くことにする。怪談で涼むとはよく言うが暦の上ではもう秋だし、その舞台が次の仕事先なのでは涼むどころではない。面白半分では実害が出てしまう。

 たとえばお腹を下すとか。ああ、そういえば腹痛王子はコーヒーの粉を買って来たんだろうか。今回もうっかりカミュには水道水が出ている。

「金持ちの家なんだ。だから使用人が山ほどいる。全部集めたら40、50……もっとだったかな?並んだらもう壮観だぜ。でも、そこのうちの子が言うんだってよ――『やっぱり一人足りない』」

「座敷童かな?」

「みんなが一人多いとか少ないとか言うんだったら東北のそれだな。そうじゃないんだ。みんなはこれで定数なのを知ってる。でも5つになるお坊ちゃんだけはもう一人いるって言って聞かない」

 何度問いただしてもそれは変わらない。ボロも出ない。一番大きな可能性を排除して、つまり子供が嘘をついているわけではないとすればどうなる?

「子供にしか見えない何かがいるんじゃねえか……って話になってたぜ。こっちは元からだが」

「えっ元からなわけ?使用人たちが気味悪がって辞めたとかじゃなくて?」

「誰も辞めてねーよ。気味が悪いだけでとくに悪さするわけじゃないし、みんな先代から奉公してるからな。奴らのライフハックは『気にしない』ってとこか」

 それに助かる点もあるらしい。

「そんでセバスチャン……ああ、その『もう一人いるはずの』使用人の名前らしいんだな。どうやら他の使用人に比べて若いらしい」

「ああ、先代から仕えてるんだって?平均年齢イコール還暦みたいな?子供の相手はつらいだろうね」

「そうそう。他にも力仕事とか……年寄りにはつらい仕事がいつの間にか済んでるらしい。あやしてるのか、お坊ちゃんもぐずらない。ここまでは、よかったんだがな」

 ことの発端はネットにそこの主人の殺人予告が出回ったことらしい。

 金持ちではあるが悪徳でもない、しかし事業を手広くやっているからどこかで恨みを買っているのかもしれない。家には妻も息子もいる。

 彼はことを重く見てある警備会社に依頼を出した。だがこれがいけなかった。

 見えない使用人は見慣れない警備員たちが気に入らなかったようである。靴を隠したり、弁当の味を違えたり、寝ていたら鼻に練りワサビを詰めたり、地味な嫌がらせが続いた。

 それも、全員にアリバイのある状況下で。そして一人また一人と警備員が脱落し、一家は国へ相談して自営業の魔導師たちに仕事を斡旋してもらうことにした。

 唯一の窓口であるお坊ちゃんによると『セバスチャンはニンニクが好き』とのことで、警備にあたる魔導師たちの朝昼晩の三食をすべてニンニク料理に変えたところ地味な嫌がらせは完全に止んだ。好物の香りで勘弁してくれたようである。

 しかし毎日毎食ニンニクを食べさせられる魔導師の精神的負担は馬鹿にならない。刺激物だから胃腸にも来る。脱落が続いて、とうとうこんなところまでお鉢が回ってきたというのだ。

「ちょっと待った」イルマは久々に口をはさんだ。「こんなところ?こんなところって言ったかい?そのお屋敷って、さあ」

「おう。二つ向こうのガヌア県だ」

 よかった。思ったより近かった。半日で帰ってこられる。

「思ったより近いね。十分遠いけど……とにかく相次ぐ脱落の謎は解けたよ」

「そういうこった。ニンニク毎食食う覚悟はあるかい?」

「なくはないよ」

 常にそうであるように淡々と答える。なに、我慢ならなかったらそこで脱落すればいいだけのことである。ニンニク料理に耐えられなくなるからといって魔導師としての力量を疑われることなんかあるまい。

 謎の使用人とネットの殺人予告に苦しまされる先方にはご愁傷さまではあるが賃金だけいただいて脱落者の列に加わらせてもらおう。ていうか家に憑いてるものならさっさと引っ越せ。

 とりあえず、しばらく食費が浮くなと思った。

「行くぞ魔女――口臭の対策は充分か?」

「……そうでもないかな」

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