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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
守ることとは
314/398

解かない

 奴らは!謎を!解かないッ!

「お土産に餃子買って帰ろうか。この近くに焼餃子がおいしい店があってね……すぐ混んじゃうから持ち帰り推奨だけど」

 食べ物の話をしてもユングはどこか険しい表情のまま飛行機の消えていったほうを見ている。理由はおおむねわかっているが、質問の形をとった。

「どうかしたのかい」

「ジオットさんはどうしたんですか。僕はまだ、あの人に会ってませんよ」

 イルマに向けての質問だが、彼にも答えはわかっている。

「死んだんだろうね。そのうちサガミルにでも浮くぜ」

 おどけたように言いながら歩きだす。国へ帰る観光客の一団とすれ違った。もうすぐ夏休みも終わりだ。ユングは三歩ほど遅れて歩き出し、速足で追いついてきた。また答えのわかっている質問を繰り返す。

「でも、誰がやるんですか?やるとして彼女ですが、マリアさんは目が見えないでしょ。魔法が使えるならまだしも……そんな感じではなかったと思います」

「目が見えなくて魔法も使えなくても人ひとりくらい殺す方法なんか山ほどあるんだけど、そうだねえ、彼女のラムダ系は稼働してなかった。ありゃ魔法を使ったことがないって見て間違いない。しかも私たちのどっちかが常にそばにいたからね、彼女に犯行は難しいね」

「なら、どうやって」

 とっくにわかっているくせに食い下がる。思うに予想があって納得がまだなのだ。大きなケージに入った大きな黒い犬が通り過ぎて行った。若い犬なのだろうか、周囲を落ち着かなげにずっと見まわしている。

「門脇さんがいたじゃないか。あの人はずっとフリーだったよ。さすがの私もあっちとこっちに同時にくっついてられないし、彼はあれほどの使い手だ。護衛の必要はない。それどころか護衛になる側だろう。二人より三人のほうが厳重だしね。しかし彼はそうしなかった。他にやることがあったんじゃないか?」

 滑らかな空港の床で、ブーツの底が音を立てる。そーれ魔導師でございと言わんばかりの恰好をした二人組に、周囲の人々は時々疑わし気な目を向けてそれぞれにどこかを目指す。

 カップルが話しているラーメン店なら方向が逆だ。そっちにあるのは飛行機か、タックスフリー店か、地上か。

「でも、どうして?」

「マリアさんが命じたんだろ?彼らはそういう文化だ。決まった主に忠実に仕える……ただね、だからこそ、刀は使わなかったはずだ。

「あんなでっかい刃物で切ったらすぐにばれる。持ち歩くだけでも怪しい。それに門脇さん自身、引き継いだ文化はそうでも生まれたのはこの平和の時代だ。命令でも犯罪に自分の誇りを使うのは気が引けたんじゃあないかな」

 死体は紫のネックレスをしてるだろうぜ。

「何で……」

「ジオットさんもいじめてたんじゃないかな。たぶんだけど。しかし彼はそれをわかっていたのかねェ?ま、そいつが一方的に連絡先特定してきた上に何かわけわからんことほざいてるんじゃ怖いわな」

 ユングのほうではやっと本当に聞きたかったことを聞けるようだ。

「何で、あの人たちをここで止めなかったんですか。殺人と殺人教唆じゃないですか」

「止めてそれで当局が何かくれんのかい。くれたらくれたで問題だが、くれないだろう?それに私たちに来た仕事はあくまで『マリアさんの護衛』だ。

「殺せと命じられてもないし、殺人をほのめかす言動も耳にしちゃいない。多少ルートは変わったようだが報酬も手に入った。それで仕事は終わり。知ったこっちゃないのさ」

「でも」

「じゃあ死体が出てからでいいさ。警察に聞かれたら言ってみればいい。マリアさんは目が不自由なうえに僕らが張り付いてました、たぶん不可能です、でも門脇さんならできたかも、ってさ」

 今度はユングは何も言わなかった。日はほとんど沈んでいた。残照がわずかに空気を赤く染めている。イルマはどこか違うところに視線をやった。

「……餃子はパスだ。カスタードタルトを買って帰ろう」

 緑の瞳に映っていたのは、小さな餃子屋に集まるスーツの群れだった。

 数日後、予想通りジオットの死体が出た。といっても、顔を魚に突き食いされて損傷が激しく、ジオットだと特定できたのはそのさらに数日後だった。前科もないからそんなものだろう。

 新聞によれば事件と事故両方の可能性を視野に入れて捜査された。が、所持品はそろって近くの海底にあり物盗りの線は薄い。怨恨もなさそうで、血にはアルコールが多く含まれていたことから酒に酔って海に落ちて溺死したのだろう、つまり事故とのことだ。

 門脇はイルマの予想よりいくらかうまくやったようである。

「よい子のみんなこんにちは。恒例でもない次回予告だよ。長めの前置きはあとちょっとだけ続くんだ。気も首も長くして待っていてくれ。

「次回は『秋が始まる』。春夏冬と書いて『商い』『飽きない』などと掛けたりするものだけど、始まってしまっていいのかな?とはいえ秋もイベントが盛りだくさんなのだから始めないわけにもいかないね。というわけで、秋が始まります。

「話のほうは……青春だね。弟子ちゃんのくせに甘酸っぱいことになっているようだ。同居というのも気苦労が多くて辛そうだねえ。

「いや、僕は独り身だからわからないけど。

  ――エメト

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