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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
守ることとは
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警備任務始末

 コンパクトなことはいいことですよね。うん、前座にそう時間をかけてもね。

 門脇の運転するレンタカーに乗り、世間話などしながら、個展の会場である洒落た画廊には何事もなく到着できた。

 車窓の上のほうには大理石の貼ってある高層ビル。たくさんのベランダが溝のように見えるマンションがいっぱいだ。視線をいつもの高さに戻せば普段見ない白基調の飲食店や女性ターゲットの美容室が並ぶ。

 よく手入れされた街路樹はポプラ。ガードレールにさえ見慣れぬ意匠が施されている。帝都のシャレオツスポット、カッシア区だ。

 すでに展示品は搬入されていて、あとはマリアの指示に従い配置を整えるだけであるようだ。付かず離れず、周囲を警戒して歩く。慣れないため時々挙動が不審になるユングに一言二言指導を入れる。

 たとえば、トイレに行きたくなったりすると困るので水分と食事を抑え、かわりにチョコレートを齧るのだが、この暑いのに常温のチョコレートというのが辛い。口の中がねちょねちょする。

 だから少しずつ齧る程度なのだが初日のユングはすぐさま一枚ばりぼりっと食べたり、何度もトイレに立ったりしていた。

 でも若いだけあって呑み込みは早いね。イルマは婆臭い感想を得る。当然何事もないのが一番だが、この分なら何事かあったとしてもユングを頼りにしてよさそうだ。

 さて、あまり冗長なのもよくないだろう。結論から言おう。

 二週間、マリアには何も起きなかった。

 本当に酒が入ったその場の冗談だか何だか、実行する気はなかったらしい。よって魔女以下二名も護衛という名目でついて回りながら芸術に親しんだだけである。うふ……どう、私みやび?

 でも護衛組には二件起きた。セリフと簡便な説明だけのダイジェスト版でお送りしよう。

 まず刀を見せてもらったユングがヘブンから帰ってこなくなった。

「あっ、こちらがその刀ですか……うふふふ……」

「ユングー、仕事に戻るよ。ユング?」

「うふ、うふふふふ……」

「……門脇さんコイツ斬って」

「了解。上ですか?下ですか?個人的には下を選んでほしいですね」

「えっ?なんか怖いから上にしとくよ」

 侍はすごかった。変態の前髪だけすぱっと斬って正気に戻した。まっすぐに切ってくれたのだが、ユングは「これじゃ決まらない」とか言って嘆いていた。何が決まらないんだ、いっつもボサボサのくせに。

 あとどうしても休みが欲しいユングと揉めた。

「だーかーら!僕は今週の日曜は休みたいんですって」

「でも君その予定、私に事前に教えなかったろォ。めっだよ、めっ!」

「先生だって僕の予定を把握しようとしなかったじゃないですかっ」

「ああそりゃあねぇ!自己管理および自発的な報告連絡相談ができると思ってたからねッたくとんだ期待外れだよ!」

「そんな言い方ないでしょう!」

「ていうか何で休むの?ここ最近君は毎日日曜日だったじゃないか」

「そ、それはっ……。何だっていいじゃないですかあ!先生のバーカ!」

「バカとは何だ社会人としての自覚もないくせに!ユングなんか禿げちまえ!」

 罵りあっていても埒が明かないので雇い主に相談しに行った。ユングには普通の人の一生分はへりくだってもらったと思う。マリアさんは苦笑して一人体制の日を許してくれた。えらく寛大だ。

 なお、休んだ日ヤツがどこで何をしていたのかはわからない。今回ばかりは問いただすつもりでいたのだが、帰ってきたら妙にご機嫌で肉まんをお土産に差し入れてくれたので気持ち悪くてうっかり聞きそびれた。なお肉まんはおいしかった。

 犯人はヤス。少ししょっぱい気分になる。

 二週間後には護衛のいろはを頭に入れたユングとともに無事マリアを空港で見送れることとなった。報酬はなぜか、門脇からの手渡しである。ちょっと家計が潤った。

 やはりというか何というか、ジオットの姿はない。何か言おうとしたユングを片手で止めて、いただいた報酬を確認し、二人の乗った飛行機を見送った。

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