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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
守ることとは
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圧『刀』的

 本編です。朝起きる必勝法とはいったい?

 翌日、少し早起きして電車を乗り継ぎ、指示通り空港へ向かう。

 助手を起こすのに手間取った。ユングは朝が弱いのだろうか。夜型なのだろうか。だとしても、推して起きるべし慈悲はない。いきなり平手を頬に一発。こいつはプレゼントだ。鋭い痛みと音にユングの瞼が震える。

「目を開けな愚図。こちとら趣味や道楽でやってるんじゃあないんだ、君の人件費から削ることになるよ」

「……はい、ありがとうございます!」

 ついさっきまで眠っていたくせに妙に滑舌よく一礼して、急いで着替えに入る。朝一から謎の暴力に罵倒。普通の人に対してはただ喧嘩を売るだけになるが、こいつの場合は別だ。さわやかな目覚めが訪れる。理由は掘り下げたくない。

 しかし、うん、いい背筋だ。目が癒される。

「ん?君、背中掻いたの?ちょっと荒れてるよ」

「ほんとですか。しみる感じはしたんですけどね……乾燥肌ですかね」

「一応化粧水とかあるよ?」

「いやいいですよ、そんな……ひぎゃぁ!?冷たい!ひりひりする!」

 冷たい化粧水攻撃で完全に目覚めたが、やはり眠いらしく、電車に乗りながら何度かあくびをしていた。

「うぁ先生、僕は首都に国際空港を置くべきだったと思いますよふ」

 あくびの途中で喋りだして、結局あくびは消せなかったらしい。むしろあくびの中にセリフが入っているのか。大体私だってぜんぜん眠くないわけじゃないんだぞ。イルマは眉をひそめた。

「変な名前の人物を作り出さないでくれたまえ。誰だい、『ウァ先生』って。ちゃんとあくびを嚙み殺してから喋りな」

「だってぇ……」また一つあくびをした。いっそ酸欠か何かか。もっとしっかり息を吸え。ひっひっふーだ。「首都にあれば、こんな早起きしなくて済むじゃないですか」

 コルヌタでは帝都の隣のエストア県に交通の要所が集まっており、国際空港もそのひとつなのだ。帝都新光空港なんてのもあるがこちらは結界との兼ね合いで国内線しかない。それどころかあれは場所が悪い。

 国際空港があと一つ二つ向こうの県であってくれたらよかったのだが、お隣なので、観光客の皆さんはまず間違いなくエストアで降りた後陸路で帝都へいらっしゃるのだ。

 それかエストアからもう一度国内線に乗って、ガヌアなりアールンなり名所の多い県へ飛ぶ。交通省痛恨のミスだろう。おかげで50年前の革命の後復興の祈りを込めて建てられた帝都新光空港は役に立たない骨董品のような扱いを受けている。しかし。

「首都にあったってどうせ遠いさ。だって田舎だし」

 マリアはくすんだ赤毛の繊細な女性だった。携えた白杖を見るに、これを頼りに歩いているのだろうが、あまり歩くような感じはしなくて、ふわふわと漂うように見える。ジオットが魔女を起用したのは同性のほうが気が楽だろうという気遣いであるらしい。

 ただ、マネージャーは門脇さんといって男なうえにフィリフェル人だった。賭博まんがにでも出てきそうな鼻が高くて顎の尖った黒スーツにサングラスのお兄さんだ。黒服……圧倒的、黒服……!

 主同様線が細い印象を受けるが、不思議とひ弱さは感じない。こういうものへの見る目はある方であるユングは魔族アンテナに何か受信しいつの間にか連絡先を交換していた。

「どういう人なの、あの人」

「剣士ですよう。かなり古いタイプの、いわゆる侍です」それを聞いてひとつ腑に落ちた。線が細いというより無駄な筋肉がないのだ。「刀はマリアさんが音を怖がるんで鞄の中に詰めてるそうですよっ。あとで見せてもらいましょう!」

 エキサイトしていた彼は門脇に「うるさいのでやめてください。息を」とか言われて凹んだ。辛辣な黒服である。目の見えない人は音に神経質になるそうだから騒がないようにとは諭しておいたつもりだったが不十分だったようだ。反省しよう。

 まあ、変態がハアハア言ってたら目が見えていても不愉快だと思うけど。

 刀の起源はさかのぼれるところまでさかのぼれば魔界にたどり着くが、人間界に限ればそれを真似たコルヌタが最初である。真似た当初は馬上から使う武器だったようだ。

 しばらくして魔物が多く馬も貴重品であるため地上で切り下ろす動作に向けてあちこちいじられた。この過程でフィリフェルとコルヌタの間を行ったり来たりして反りのある片刃の刀が出来上がったらしい。

 その後量産が難しいために、産業面で遅れていたコルヌタでは一気に廃れ、フィリフェルにのみひとつの武道として定着する。不思議な歴史だが、イルマはあまり興味がないので小学生の交換日記みたいだと思っている。片方にだけ日記の習慣が根付いた、みたいな。

 一応こちらでもエメト家が刀を用いていたようだが、革命で滅亡し現在伝えている者はいない。大貴族だけあって贅沢な使いようで、近世に入ると別の技術も節操なく取り込んでいったらしい。

 何か、戦車のお化けみたいなどでかい装甲車に馬と刀持ったおにーさん山ほど積んでやってきて、積んだ大砲で相手の装備をざっくり蹴散らして、さらに馬に乗ったおにーさんを投下して殲滅していたようだ。

 フィジカルバカも昔からで、七日くらい馬に乗ったまま敵を斬り続けることなど余裕だったとかなんとか、お前はいいけど馬がかわいそうだからやめてやれよと思うような逸話には事欠かない。しかしここに出てくる刀はフィリフェルと比べて一世代前だったりする。

 微妙に乗り遅れているあたり、うちの国らしい。

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