不思議な仕事だけどお金もらえるんだから問題ないよねっ
本編です。びっくりするほどネタバレタイトル!
さて、ステルス技能もちの魔女のところにはカミュを待たずして一件仕事が来た。護衛の仕事らしい。報酬もよかった。前金だけで半ギデンだ。やったぜ。ユングじゃないが喜びの腹踊りをやりたくなる。
ただどうも気になる点がいくつもあるのだった。護衛する対象はマリアといって女の人だ。で、頼みに来たのはジオットといって男の人が一人だ。つながりが見えない。
知り合いではあるようだが家族でも親戚でも恋人でもない。ちゃんと相手に話は通っているのかというイルマの問いに、彼は「それは間違いない」と頷いた。ならばよかろう。そっちへ行って陰に日向に護衛するだけだ。しかし、である。
「何から守ればいいのかな?」
この問いにはすぐに答えなかった。ストーカーなら魔導師に相談するにしてもまず警察に行って一筆書いてもらってくるほうが一般的だ。殺害予告とかならそれこそ警察行けとなる。お金持ちとかなら警備会社に依頼出すほうが早かろう。
「マリアが殺されるかもしれない。思い過ごしだといいんだけど」
ああそうだなそれは大変だな。どう考えても思い過ごしじゃないな。お前の妄想だ。頭の病院に行け。いい医者を知っているぞ。俺のかかりつけなんだ。教えてやろう。頭の片隅のししょーがそんなことを言った。同感である。
しかし黙って聞くことにした。ししょー行きつけの精神科なんか知らん。メモ片手に先を促す。
ちらっと見まわしたらユングはいなかった。いつの間にかどこかへ出かけたらしい。夕飯ごろには帰ってくるだろう飼い猫みたいなヤツだ。あんにゃろう、どこ行きやがった。帰ってきたらまた説明せねばならんではないか。
「へえ。んで、どう言ってたんですその人」
ばっちり夕飯前には帰ってきたイエネコ・朝顔くんは小骨を口の端から選りだしながら聞いてきた。毛色は白黒のハチワレってとこか。しかしまるで他人事だ。
ところで本日の夕飯は大判ガレイという魔物を使った煮つけ料理だ。大判ガレイというのは……まあ後にしよう。
「明日から二週間、悪霊討伐魔導師による二人体制のフルタイム警護をお望みなんだってさ。君にも来てもらうからね」
仕事だよ喜べ!と思ったのだが、ユングは露骨に嫌そうな顔をした。
「今週もですか?用事があるんですけど。休みたいんですけど」
「要相談という名の不可能だね。諦めな。今度からはトイレにカレンダーあるだろ?あれに書き込んどいてくれないかなあ」
イルマ自身は時々書き込んでいる。「買いだし」とか「掃除機をかける」とか。予定を把握しておくのは大事なのだ。白土を塗っていない大判のカレンダーだから書き込みがしやすく重宝している。
一緒にえんぴつを置いてあるから察してくれると思ったのだがやはり我が家のプリンスはポンコツだった。
「そんなにお仕事来る予定ですか?」
「来なくても書いとくんだよ!たまに来たお仕事とデートが重なったら困るだろ」
確かに困りますねえとか何とか腑抜けた顔のまま言って小松菜をつまむ。よく考えたらこいつとデートがつながらないが、まあそんなことはよかろう。
「ところで、結局何がどうなってナニしたんですか。B級ホラー映画の予告編風に解説お願いしますよ」
「何さ、その変な縛り。……頑張ってみるけど、あまり期待するんじゃないよ?」
B級なホラー映画なんか好き好んで見ないからお題がすでによくわからないが想像の翼をどこか遠くへはばたかせる。
「成人後初の同窓会にマリアは現れなかった。その不在に気づいた当時の同級生たちはマリアの話題に花を咲かせる。彼女は目が不自由なことを理由にいじめられていたのだ。陽気になった彼らは『久々にあいつしごいてやるか』などと言い出し……こんなんでどうかな?」
油揚げと白ご飯が魚と一緒にユングの口へ消えた。ニュースの音声が嫌に大きく響く。前の女子アナがあんな形で辞めたから今回新しく入ったのは男性だ。若い人だが、低くて落ち着きのある声に日々癒されている。
トトナ区周辺は明日は晴れ時々曇りところにより雨だそうだ。降水確率は30パーセント。微妙。微妙だ。