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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
華より食料
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Feed it 2

 この間夜更かしして朝10時に起きました。めっちゃ頭痛かったです。やっぱり規則正しい生活は大事ですね。

「おう、それなんだよ」カミュは色黒だから目立つ白目を光らせながら何でも入る不思議なカバンから書類ケースを引っ張り出し、さらにそこから紙を取り出した。「イルちゃん二つ名なかっただろ?今回の件でつくからその通知な」

 受け取った紙をじろじろと見る。厚手のケント紙ってところか。静かにカミュへ突き出す。

「いい紙だね」

「いや読めよ。書いてあるだろ、二つ名」

 戻ってきた紙をじろじろと見る。これか、二つ名。再び、静かにカミュへ突き出す。

「ちぇんじ。チェンジで」

「そんなんねーから甘んじて受けろ」紙が押し戻ってきた。つい眉間にしわが寄り口がひん曲がる。「あ、ユング。なぜかお前にもあるってよ」

「ええっ、僕何にもしてないのに?」

 困惑するユングのぶんはどこか別のところに入れたらしい。書類をかき分けて探している。同じところに入れておけばよかったろうに。

「俺もそう思う。ひょっとしてコンビ組んでる魔導師の片方だけ二つ名付きってのは変だからかな?」

「えー」

 魔導師の二つ名は大魔導協会により承認されるが、つけるのは協会の人ではない。協会は二つ名をつけることを了承し、登録するだけだ。では誰がつけるのかという重大事は各国に委任されている。

 コルヌタの場合、民間の魔導師は基本的に公募である。各地区で「この人につけたい二つ名集まれー」するのだ。

 公務員は公僕の赤い蹴鞠ことラスプーチンが考えることになっている。国家直属の魔導師の事実上の元締めだからだ。実存や不条理はその流れである。まさにシンプルイズベスト。民間もそうであってほしかった。

 厚手の用紙に黒インクで印刷された公募の悲劇は四文字だった。『塔の魔女』。イルマは思わず顔をしかめた。魔女って。魔女って何だよ。しかも塔の……そいつって絶対悪役じゃん。ご近所の皆さんの中で私は一体何なんだろう。

「ビルに住んでる魔導師カッコ女じゃねーの。深く考えんな……あった」

 ちらりと横目で見れば、ちょうどユングが紙を受け取ったところだった。

 彼の二つ名は『朝顔の君』。控えめに言ってそっちがよかった。ていうか女につける二つ名なんでないの。しかしこっちから読めるなんて……あいつ裏返しに持ってやんの、バッカでー。

 ユングの側からはただの白紙のはずだが、まるで気づく様子がない。キョトンとしやがってマヌケめ、とひそかに笑うがそれにしてもおかしい。別のものが見えているんだろうか。

 幻覚という意味ではない。もう一枚あるのだ。もう一枚紙があって、そっちは彼のほうへ表を向けている。

 その紙の内容はわからないが、キョトンとして固まるくらいだから難なく予想はつく。イルマももらったことがある。

「こ……国家直属?僕が?」

「おう。ラスプーチンの推薦だぜ。見込みがあるってよ。元型の魔導師、どうよ?」

 カミュがラスプーチンの名前を出したことでイルマは一つ納得した。なるほどね、読めた読めた。残念だけど当然だね、だってあんまり隠す気なさそうだもん。

 さすがに気づけよ、ししょーの鳩子。

「給料も高くて毎月もらえるし、生活が安定するぜ。寮もあるから部屋探さなくていいし飯も出る」

 実存さんとか実存さんとか主に実存さんのせいで忘れられがちだが、公務員の魔導師は軍人ではなく、どちらかというと官僚に近い。シビリアンだ。そうでない国も一部あるが、多くは、そしてここコルヌタでも伝統的に魔導師は軍に属さない。

 単体で強い魔導師に軍など率いさせては反乱を起こしたとき手に負えないからだそうだ。そして、公務員の場合寮が用意されているのも大体同じ理由からである。

 その昔、魔導師を集団生活させることで相互に監視させると同時に一般市民から隔離していたんだとか。

 今も寮は軍の基地内にあるが、これは軍の設備だからというわけではない。現在は伝統と対魔導師演習が容易なためとのことだが元公務員わが師は演習なんかなかったとおっしゃっている。今時の戦争にそう魔導師が役立つでもあるまいしたぶん惰性なのであろう。

 もともとは軍隊のただなかに置くことで脱走や蜂起を難しくする狙いがあったようだ。

 出入り口には密告用の投書箱があり、ここに密告文を入れられたことで獄死した魔導師や、密告文を入れたことで同僚たちからリンチを受けて死んだ魔導師もいた。隣人を愛するには少し疑心暗鬼を生じすぎたみたいだ。

 なお、投書箱や中に入っていた紙片は現在ある博物館の常設展になっている。常設展によくあるように人入りが少ないので土日祝日に行ってもガラガラ。実際の懲罰に使われた鉄鎖、細い竹の棒などとともにゆったり眺めることができる。

 さて歴史的背景は置いておくとして、何といううまい話だ。どうして蹴ったのだろう。数年前の自分に飛び蹴りをかまして大気圏で分解させてやりたい。

「……とても魅力的だけど……お断りします」推薦状をカミュへ返した。気づいたらしい。「僕お金に興味ないので。それにそっちへ行ったら先生のご飯が食べられないです」

 おりこうさん。断る理由としちゃイマイチだが思い至りはしたようだね。そんじゃ援護射撃でもしますか。ぱさっと紙をテーブルに置いた。

「私も困るよ。やっぱり前衛はほしいし……」

 若干の上目遣いがポイントだ。ユングがぱあっと顔を輝かせるのがちょっとうざかった。こいつポーカーフェイスって知ってるんだろうか。そうかあ、と首をすくめてカミュは推薦状を書類ケースへしまう。

「皆さんこんにちは。甲種の紅一点、東郷です。ええ、私もまさか回想のみで本編未登場のまま次回予告になるなんて思ってませんでした。

「実は私魔法とかもまだ一回も使ってないんですー。メンゲレさん同様、実存さんともイルマ……ちゃんとも絡みは多かったはずなんですけどー。

「は?私とメンゲレじゃ私のキャラが薄い?は?マジで言ってんの?はぁ~~(クソデカため息)

「ていうかもう時間ないんだけど。私この後合コンあるから、呼ばれたし行かないとだしー。いや別に結婚したくないわけじゃないよ?当たり前じゃん?

「えり好みしてるわけじゃないんですけど。何ですぐそういう発想になるかなあーもう。ただ誰にでもついてくわけじゃないだけよ!

「え?理想のタイプ?何よ照れるじゃない。んーえっとえっと、イケメンでー、料理がおいしくてー、家事ができる人がいいな。私できないもん。俺様系でー、私の話聞いてくれてー、私が働いてることに理解があってーお金もたくさん稼いでてー。もちろん暴力は嫌よ。

「休みの日には私が好きなカフェとかー、前もって調べといてサプライズで連れてってくれるような人がいいかなー。

「ん?何?よくわかったって?よろしいー。じゃあねー。

 

※ありんこ注

 次回は『Feed it 3』です。

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