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現代に戻ってまいりました。そうそう、最近知ったんだけど人の血ってやがて黒になるみたいですね。別に衝撃なんか受けてませんよ。どーしよからのオーパッキャラマド程度ですよ。パオパオパパパしておりませんよ。
血染めの杖はたぶん魔物もどつきまくっているので、何か変な反応を起こして赤のまま保たれてると思ってください。鞭で……いや無知でござった。
結局依頼は来なかった。馬鹿野郎お前わかってねえのかお前俺はお前悪霊ぶっ倒して生還したんだぞお前。そんなことを言っても来ないんだから仕方ない。
代わりに来たのは公務員カミュだった。
実によく来る。イルマでも時々この人は暇なのだろうかと邪推するくらいここへ来る。それともあれか、とち狂って国と民間の懸け橋にでもなりに来たのかい?
「もうちょっとくらい言い方があると思うぜ。変なところであいつに似てきやがって、このクソガキちゃんめ」
生意気言ったら重めのデコピンをもらった。しかしあいつとは何人目の魔導師なんだろうか。常識的に考えればイルマを育てた最後のn人目になるだろうが、常識が通じるようなら甲種魔導師なんかやっていまい。
それに、カミュはイルマの師のことになるとどこか狂気じみてくるように思う。しかしホモォという意味ではない。イルマは腐りきっているが、時々はカミュ×実存とか実存×カミュとか妄想するがそれはあくまで妄想である。現実はまた別だ。
「だっていっつもカミュさんじゃん。そろそろ東郷さんがいい」
「お?青福いらねえのかよ。しゃーねーな、持って帰って一人で食うわ」
カミュは広く一般に認められた人格者であり、クソガキことイルマから見ても良識のあるいい大人だ。友達思いで正義感だって強い。ところが、親友であるところの実存に対してだけはこの良識やら正義感やらはさぼりがちになるらしい。そうでないと説明がつかないところがある。
なぜに人格の書き換えが平然と行われる現状を見過ごしていたのだろう。人として脳の作りがおかしなことになっているイルマだって、師が仕込んだ倫理でよくないことだと判断できる。
もっと言えば最初に崩壊してしまった時点で殺してやるべきではなかったのかと。細かな感慨などの要素は薄めの味付けだからさほど抵抗はないが、カミュは普通の人間の脳の作りだ。何も思わないはずがない。ないはずだ。
そんなことはともかく。
「最近東郷さん見ないんだけど、どったの。死んだ?」
カミュはユングが淹れてきたコーヒーを小規模に吹いた。お客にコーヒーを用意するなんてうちの助手にしては珍しく気の利くことだ。なお、スウェット姿の模様。
「死んだってなんだよ死んではいねーよ」口元をティッシュで拭い、笑いをこらえながらコーヒーを机に置く。「派手さはないけど一応あいつも甲種だからな?」
それもそうだ。しかしここ二年まるで見かけない。一応彼女は帝都在住なのにおかしな話だ。
「二年だよ?ひそかに狙ってたししょーが病死してだいぶキテたのは知ってるけど、それにしたっていつまでもさ。人のこと避けすぎだと思わないかい」
「へえ、狙ってたのか。結婚相手としちゃ最悪中の最悪だと思うけどな」
ユングがぬっと顔を出した。さっき「失礼」とか言ってちょっと上に行ったから着替えてきたのかと思ったらメガネをかけただけである。もう諦めてスウェットでいるらしい。自堕落人間め。闇に隠れて生きろ。
実存、つまり鳩子の話題になったから出てきたようだ。最近のヤツは知識欲に突き動かされている。
「何でですか?最悪なんですか?」
「だって死ぬじゃん。イケメンでも最強でもイクメンでも死んじゃったら夫婦生活維持できないだろ」
「あーたしかに」なんだか投げやりだった。変なユング。「それ忘れてました」
変なユングということは誘い受けか襲い受けか?攻めってのはさすがにないか。あー青福おいしい。しかし、カミュはどうしてここへ来たのだろう。まさかイルマに餌付けをしに来ただけではあるまい。