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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
華より食料
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ノーフューチャー

 期間が開いてしまい、久しぶりとなった更新ですがその前に一つだけお知らせしておくことがあります。時々あとがきやまえがきでありんこがぶつぶつ言っていたこと、覚えていらっしゃるでしょうか。

 このたび第一部、『プロローグ』の最後に挿絵を入れました。いえーい。まだあまり上手くはありませんが、よければ見てやってください。

 ある日カミュが三日ほどの出張を終えて自室に戻ってくると、ルームメイトが変わり果てていた。死んでいたわけではない。ないが、いっそ死んでいたほうがマシそうな感じだった。

「おい……お前、実存か?」

 ブルーライトカットのメガネをかけてアニメキャラの大きくプリントされたTシャツをジーパンにイン、ヘアバンドでべっとりした前髪を持ち上げてじめじめとパソコンの画面をのぞき込んでいた人物は振り返った。

 どちらも何も言わず、ただ時間だけが過ぎていく。

「……フヒッ」

 その笑みに、ここへ入るまでの数分に感じていた嫌な予感を思い出した。

 久々の寮はなんとなく生乾きの雑巾みたいな臭いがしたが、夏だしカビでも出たのかと思っていた。掃除をしなきゃなと話しかけたメンゲレはなんだか曖昧に答えていそいそとどこかへ行ってしまった。最近甲種になった東郷は泣きはらしたみたいな顔でブツブツ言っていた。

 そうだ、嫌な予感はしていたんだ。最初から。

 久々に帰ってきた自室はエロゲと悪臭に満ちたキモオタおひとり様用の巣窟となっていたのである。どうやら今回の人格は引きこもりキモオタらしい。風呂に入らなくなり着替えもしなくなり体臭が生乾きの雑巾のようになった。

 食事は食べに出てくる。クチャラーだった。歯も磨かないから口臭もすごい。そこにボトラーまで入って嫌なフルハウスの完成だ。

 多大なる迷惑を受けたと思しきメンゲレに謝罪し、金髪イケメンに抱いていた夢が壊れた東郷をなだめすかし、この馬鹿げた計画を思いついたラスプーチンはひとまず殴ったが、そんなことで事態が収拾できようはずもない。

「おいらだって悪かったと思ってるよ」気まずかったのかこそこそ隠れていたラスプーチンはこう供述した。おう、ならすぐに人格書き換えやがれ。「でもね、人格ってそうぽんぽん書き換えていいもんじゃないんだよ」

「今更だろ」

 それはそうなんだけど、と頬を膨らませる。かわいらしいお子様なのだが、中身が爺だと思うとこう、胃の奥からこみ上げてくる熱いものがある。

「いつもその時々の人格が勝手に崩壊してから次作ってたでしょ?今回も一応人格崩壊まで待たないと最悪脳みそ焼き切れちゃうよ」

 これは事実上の『無期限』である。カミュはお子様の赤毛をぎうっと引っ張った。

「上司にこんなこと言いたくねーけどお前何してんの?」

「……馬鹿なことしてます」

 このままでは自室に戻って生活できないしあの状態の実存が仕事をするかもわからない。元の戦闘力が高いだけに基地からつまみ出そうにも無理がある。というか、無理だった。

(何とかしてあいつを真人間にしないと俺の人格まで貶められちまう……!)

 強烈な危機感に背中を押され、部屋から引きずり出そうととっくに試みたが無理だったのだ。

 魔法を駆使して捕縛しようとしたカミュを実存は魔法すら使わず「フヒヒ特化型は脆いでござるな」と半笑いで制圧した。お互い甲種で手の内が割れているからポテンシャルがものをいう。そのあとは全身の関節を外され猿轡を施され段ボール箱に詰められて廊下に放置された。

「カミュくん!?どしたのこんなことになって!」

 たまたま来ていた大臣、もといエメトが発見してくれなかったらどうなっていたかわからない。なぜ大臣がふらりとこんなところに現れるのかよく考えたら謎だがいい人だから別にいいと思う。

「ああもう……あの部屋見ましたか大臣」

「ううん見てない。見る前にか・え・れ老害って怒られたから」

 直接聞いたわけではないから何とも言えないがたぶん点の代わりにWが挟まっている。なぜかいつの代でも実存はエメトのことが嫌いだ。今回もそうらしい。と、ここでカミュはあることに気づいた。

「怒られた、すか?」

「え?うん。出てきたよ」

 叩き出されたじゃなくて?この確認にもエメトは頷いた。そういえばこの人は意外とすごかった。常人が過労死する現場でケロッとしているおっさんだ。もしかするともしかするかもしれない。

「あの、頼みごとが……あるんすけど」

「んー?なーに?」

 こうして、ハイスペックキモオタ実存更生計画が始まったのであった。まずはエメトに現状を認識させ協力させる。これは比較的楽だった。

 実存が食事に出た時を見計らって部屋に入ればいいだけである。中身をあまり認識したくないボトルとか、自作感漂う抱き枕カバーとか、どれもこれも数日でよく揃ったとほめたくなるくらいの量がある。他にも山ほどよろしくないものがある。

 実存を可愛がり、魔導師たちにも理解があり、高潔で慈悲深いエメトが動かないわけがない。本命だったエメトの命令権は使えなかったが、収穫としては大きい。

「カミュくん!絶対!絶対何とかしようねっ!」

「当たり前だっ!」

 少しエメトを誤解していたかもしれない。カミュは思った。これまで、彼を政治家の例にもれず権謀術数に長けたどこか冷たい人間だと思っていた。だから実存に嫌われているのだと。

 しかし違った。今交わしたのは確かに熱い漢の誓いだった。この時エメトはカミュの中で『仲間』になったのだ。

「平和な寮内に突如現れた汚部屋。その臭気と負のオーラは空気中に拡散し周囲を汚染していく。薄暗く湿ったその深奥で、部屋の主はエロゲ片手に独り嗤う。

「公務員よ団結せよ。必ず彼の者を打ち滅ぼし、かつての平和を取り戻すのだ。

「次回、『ノーフューチャー 2』。待て、しかして期待せよ。

   ――フロスト

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