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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
華より食料
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冷たい朝食

 遅れまして本編です。ちょっとしたスランプに襲われていまして、筆が大幅に遅れています。峠は越えたのでご安心を。のんびり更新します。

 戻った時には眠気が完全に脳内を埋めていて、何をどうやったんだかよく覚えていないがたぶん風呂に入って寝たんだろう。起きたらベッドにいた。

夜更かしした翌日特有の靄のかかった意識が起床と覚醒を拒む。腹は何か食べるものを要求している。ししょーごはんまだー。残念そいつは死んだもういない。

「朝ごはん作らなきゃ……」

 どうにか起き上がり、パジャマから着替えて服を着る。

パジャマには何か、眠りの気配とでもいうようなものが絡みついていてまた布団へ誘ってくるのだ。脱がねばならない。そう思って何となく魔導師の制服に着替えたが、よくよく考えてみれば今日は事務所は閉めていたい気分である。

 うーん。着てしまったものは仕方ない。開けとくか。

 今朝は素振りはしなくていいだろう。たるい。腹が重たい。ユングじゃないけど何か消化にいいものが食べたい。

 冷蔵庫を漁ると消費期限間近で割引のうどんがあった。またうどんか。この暑いのに朝から熱いものを食べるのか。やれやれ……。

 そっとうどんを冷蔵庫へ戻す。君は夕飯だ。カレーうどんになるのだ。

 結局、いつ買ったか定かでないヨーグルトのようなものを取り出す。これはすでにヨーグルトではなくなっている可能性があるものをさしてようなものと言っているのではない。『ヨーグルトのようなもの』そういう商標なのである。

 ところでコルヌタにはメクラウシという魔物がいる。

 高さ120センチメートル、長さ2メートルほどのなんとなく牛っぽくも見える形状をしたゼラチン質の皮を持つ魔物である。明るい草原に分布するが、外側からも内側からも確認する限り目はない。

 『めくら』が差別用語でよろしくないというので近々名前が変わるらしいがそれはどうだっていい。防御のためか、軟骨のようなものが体の表面に散らばっている。のそのそと鈍重に這いまわり、草を食べたり音を食べたりして生きている。

 このことがどう関わってくるか、ここまで付き合ってきてくれた読者諸兄にはもう大体予想がついていることだろう。

 メクラウシの腹部を開くとあら不思議、牛乳とほとんど同じ成分と味の白い液体が手に入るのだ。

 これは実はメクラウシの体液である。どうやら彼らは腹腔内をチューブ状の腸がくるりとひと巻きしているほかにこれといった内臓を持たず、あとはどこも体液で満たされているだけらしい。

 ナマコのようなつくりをしている。つまり笑っちゃうほど単純な仕組みの生物なのである。

 なぜこんな単純なブツが複雑な仕組みの哺乳類と同じものを作るのか?単純な内蔵でどうして硬い草が消化できるのか?よくわかっていない。

 しかし、どうやら草を体内で牛と同様に消化吸収した結果体液の成分も味も牛乳に近づいたということらしい。なぜそうなるのかは定かでない。魔物だしあまり深く考えないほうがいいのかもしれない。

 なお、現在この通り入り乱れてはいるがコルヌタはもともと牛乳などを摂る文化のない国である。牛肉を食べる文化もなかった。ゆえに牛乳っぽい液を出すことを知られたのもごく最近である。しかし昔からメクラウシと呼ばれているのであった。

 こちらは農業からのネーミングである。メクラウシは鈍感で、人が上に乗っても気づかず歩き続ける。しかも速度は遅いのに力が強く荷物を引かせても大丈夫。知能も低いため干した草の束を鼻先に近づければ簡単に誘導できる。

 このため牛の代用として農耕に利用されていた。最近では耕運機に生息地を奪われている。

 牛乳らしきものがとれることが分かったのは70年くらい前だ。戦後の食糧難を解決すべく、いろいろな人が頭をひねった。

 そんな中目についたのがメクラウシ。人里近くにいるしのろいし餌が十分なら馬鹿みたいに増えるのだ。当初は「こいつ醤油かけたら旨いかな」くらいの心持であったらしいが、刺身にすべく包丁を入れた彼は別のものを発見した。

 こうして『牛乳らしきもの』は栄養価も高く安価なために国に奨励され全国に広まった。成分もほぼほぼ牛乳なのでヨーグルトやチーズにも加工されている。この『ヨーグルトのようなもの』もその一つだ。

 また、帝都では飲む分には『本物』の牛乳を買い、チーズなどは代替品で済ませるのが粋と思われていたりする。

 というわけで、ここまで長かったろうが、久々なのでこのくらいのやんちゃは許してほしい魔物図鑑だった。

 冷蔵庫から出したての冷たいヨーグルトのようなものを大き目のスプーンを使ってガラスのお椀に取り分ける。バテ切った助手でもたぶん食べるだろう。食べなかったら私が食べる。

 空になったプラスチックの容器をポイして、スプーンに残った汁を舐めてみる。思わず顔をしかめた。酸っぱい。だがこの酸っぱさはプレーンヨーグルトゆえの酸っぱさで腐っているからではない。

 苦いのと辛いのと酸っぱいのは苦手だが、ヨーグルトはいつもプレーンを買ってくる。もちろんそのまま食べるとかではない。ヨーグルトにかけるジャムを選ぶ楽しみがあるからだ。これで加糖だとジャムを加える意味がなくなってしまう。

 いちごは切らしていたっけな。そんならいちじくか、マーマレードか。

 今日はマーマレードに決めた。ほろ苦いくらいならいける。黄金色の半固体を白い粘性のある海へ投下すると、ひょこひょこと突き出たオレンジの皮の細く切ったのがてらてらと光った。

 盆踊りが終わると、気分だけは秋のつもりになって必要以上に暑さを感じる。外気と体温で生ぬるく温まった舌の温度がマーマレード入りヨーグルトに奪われる。なかなかいい感覚だ。しかしゆっくりしていると今度はヨーグルトがぬるくなってしまう。

 二口目を口へ運んだところで足音がして、ユングがひょっこり顔を出した。食べ物の波動を感じ取ったらしい。

「おはよ」

「おはようございます……」食べ物を前にしてなんだかテンションが低い。まだバテているのか、昨夜のジャンクフードがもたれているのだろうとあたりをつけつつ、なに、賢者モード?と冗談半分に言ってみる。顔をしかめた。

「はっきり言わないでください」

「え、賢者モードなんだ」

「断じて違います。あのね、そういうことじゃなくてね。先生いちいち品がないですよ、もう。あなたは男子中学生ですか」

「年齢的には女子中学生だけど」まあいいや。以後気を付けまーすっ。口に入れたオレンジの皮をもちゃもちゃと噛む。「朝ごはんヨーグルトだけど、ジャムどうする?」

 うー、とか何とか言いながらのっそり冷蔵庫を開いて、スウェットの裾に手を入れてポリポリと腹を掻く。目元にかかる髪を払って、見覚えのある動きだ。しぐさもあちこち似てるんだなと笑いがこぼれる。血のつながりってすごい。

――ししょーとはほんとの親子じゃないけどそれでいいんだっ。だってほんとに親子だったら結婚できないじゃん!

――お、おい待てッ!俺にも選ぶ権利があってだな……!

 あれ、ししょー何でマジで嫌がってんの。やっだー。そこ喜ぶとこじゃないのー。

「……おすすめ何ですか」

「いちじくかマーマレードだね」

「その二つしかないじゃないですかぁ。いじわる」

 メガネをかけていないのにどうしてその二つしかないとわかるのだろう……あ、色か。色覚異常はないようだ。

 結局いちじくにしたらしい。ポイポイといくらかヨーグルトにかけた。ヨーグルトが跳ねてボールの内側に付着した。おいビンはあったとこに戻せよ。ヨーグルトをかき回し、思い出したようにいただきますと手を合わせて口へ運ぶ。

 変な顔をした。

「……なんかプチプチしてます」

「いちじくだからね。種があるよね」

「それもそうですね……僕はマーマレードのつもりだったんですけどねえ」

「メガネかけてよく見りゃよかったと思うよ。何で裸眼なの?」

 ふぅやれやれと言わんばかりにため息をついた。ちょっと腹が立つが、視力がよくてメガネ生活をしたことがない。メガネの人にはメガネの人なりの何かがあるのだろう。おとなしく聞く。

「僕のメガネは度がきついんですよ、先生」

「しってる」

 だってつけてないとろくに物も見えないんだろ。度が強いに決まってるじゃないか。

「なので、かけてると目が疲れるんです。用事のない時くらいは楽にしてたいんですよ」

 用事のない時、ねえ。

「ほーん」

 ちょっと何ですかその全然納得してない頷き!仕方ないだろう。ばっと身を起こしたヤツには見えていないんだから。事務所が開いてることなんて見えていないんだから。いろいろ迂闊なんだよなあ。

 しかし、ユングは大人になったらどんな感じなんだろう。やっぱり師に似るんだろうか。黒髪いけめん?それとも、もっとこう……いわゆるキモオタっぽい感じ?丸顔で、メガネで。ん?なんかこの二つ両立できなくない?

「噂をすれば影が差すって言うよね。個人的にはあまり信じてないんだけど……残念だ。次回はその話なんだ。困っちゃうよもう。また出番がないのかい、私ゃ主人公なのに。

「次回はわれらが正ヒロインこと本名不明のあの男の外伝さ。え?主人公はカミュさんだって?知ったこっちゃないよ。

「ふぅ、ちょくちょく挟みすぎだって?作者はどうあっても外伝が書きたいらしいんだ。現在私の中じゃ『本当は軍記モノが書きたかったけどいまひとつ技量が足りなかった説』が台頭してるよ。つまり外伝を書くために本編を消費しているのさ。

「本人は否定しているがどうだろうね。

「だって冷遇されすぎじゃないか。今およそ300話あるけどどうだい、そのうち私が出現しない話数を数えてみたまえ。ひとつ、ふたつ……ん?あれ、意外と少ないかも?まあともかく待遇の改善を切に願うさ。

「ああ、ところでこの次回予告、キャラに喋らせるやつね、思いついてやってみたけどよく考えたら大して人数いないし作者の見通しも甘いから次からはしたりしなかったりになるらしいよ。その分考えて書くってさ。

「何かしおらしいこと言ってるけど本当は恥ずかしくなってきたんじゃないかな?若気のイタリーおそロシア……。

「次回も一緒にー、れりーず!

  ――イルマ

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