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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
持ち込まれた大釜
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おめかし

 本編です。やっと主人公の登場です。

 盆踊りの夜は三日後にやってきた。

 まず、事務所を閉める。ちょっと考えて一応、夏祭りにいますとチラシの裏に書いて貼る。急ぐなら探しに来てね。多分、法被を着ているおじさんの誰かに言えばお呼び出ししてくれるからね。

 意外とメリハリボディのイルマは腹にタオルを巻き、サラシで押さえた胸との段差を極力少なくしてあの注染の浴衣を着る。少し汗ばむようだが、木綿だからマシだろう。

 腰に巻くのは赤い半幅帯。艶のある表面に流れる水ととんぼが同じ色で織りだされている。これをお文庫にして後ろへ回したところで、鏡を見て眉を寄せた。

「……ちょっと子供っぽいかな?」

「年相応でよろしいんじゃないですかあ」

 君に聞いたわけじゃないんだがね。むっとしていつもお客を座らせているソファを振り向く。

 ユングは黒髪を束ねず首や肩に落ちかからせ、素肌の上に高そうな生地をふんだんに使った黒っぽい浴衣をしどけなく羽織っているだけだ。などと書くと妙に色っぽいが、単に着付けが自分でできないだけである。

 あとでイルマが着つけることになるらしい。順番待ち、順番待ち。

「ていうか、君はなぜわざわざ新しいのを頼んだのかな。私が女装っぽいって言ったからか?だとしても実家からは持ってこなかったわけ?しかも浴衣に角帯のセットって……自分で帯結べないくせに。しかも変な組み合わせだね」

「そうですか?浴衣に角帯って変ですか?このセットで売ってて、いいなーと思ってたんですけど」

 イルマはまた少し嫌な顔をした。ここ三日間、ユングは何の連絡もなく外出しあちこち遊び(?)歩いていたのだ。それ自体は構わない。

 一緒に住んじゃいるが赤の他人。ヤツの親でも嫁でもない。もともとさほどにぎわう事務所でもない。あれでイルマより年上なんだからプライベートは我がで何とかするだろう。興味もないからどこに行くのかもあまり聞かなかった。

 しかし、近所の人たちはそうもいかない。

 買い物に出ると、はす向かいのおじちゃんだった。そしてこうだ、「兄ちゃん一緒じゃないのかい?」。兄じゃないし奴は今朝どっかへ出かけたと答えると、「今帰りじゃないのかよ?」。この通り買い物に出るところだというのに。あとあれの妹扱いは何か嫌だ。

 しかもそれだけではない。今度は靴下を買いに行った店で「ずいぶん羽振りがよくなったねえ」だ。問いただすとおばちゃん、呉服屋に行ったらユングを見かけたというではないか。

 黒縁メガネのぷにぷにっとした子、助手だろ?と。彼女はイルマが助手におつかいをさせたと思ったらしい。冗談じゃない。

 あいつにやらせるくらいならその辺歩いてる顔見知りの小学生に2カウロ持たせてチョコレートを買って持ってこさせる方が圧倒的に安心である――といった反論はややこしいので脇に置いておこう。

 つまり、おぼっちゃま気質の助手が独り歩きしまくったおかげでイルマは迷惑をこうむったのだ。

「……簡単に買うのはやめな。カモにされるよ」

「はーい。42時間悩んだくらいじゃ買わないことにしまーす」

「寝た時間を引いたのか、二日目くらいに発見したのか微妙な時間だね。もっとキリ良くしな」

 栗色の髪にぎゅうと櫛を押し込んで梳き、項の見えるアップヘアに整える。ちりめんのかんざしをブスッと刺して、やっぱりちょっと子供っぽい。帯だろうか。そうだなあ、赤は小学生のランドセルの色だもんな。もっとこう、落ち着いた色の帯が欲しい。

「あと私も連れてってくれると嬉しいな、今度から」

「たかる気ですか?」

「!?」

 ユングは せいこくをいる を おぼえた!

 どこかで効果音がした。よくわかったなと褒めておいたらいいのか、そういうことじゃないよと否定してやればいいのか。いや、そもそも賞金が入ってきたからたかる必要はないと説けばいいか?

 でもなあ。たかれるもんなら、たかりたいよなあ。だってどうせ石油出るんだろ、君の実家。

 雪景色とかけて、ぼっちの予定表とときます。


 ……どちらも、ホワイトクリスマスでしょう。

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