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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
持ち込まれた大釜
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鬼法師 その2

 また会いましたね。前回の続きです。後半は早めに載せておくべきかと思いまして……こんな日もあります。

「今度、お前に仕事をさせてみようと思うんだ」視線の先でピクリと肩が動いた。察しのいいやつだ。「袈裟着て行って来い」

 さて、袈裟とは、現実世界においては仏教の僧侶が左肩から右脇下にかけて衣の上にまとう長方形の布である。読者の皆さんの周囲でもこれを着てお経をあげるお坊さんやスクーターにまたがるお坊さんを観測できることであろう。

 で、あるが、ところ変われば品変わるというやつで、世界三大宗教がまったく異なるこの世界でそれを着用しているのは主に鬼だ。それも、いつも着ているというわけではない。

 普段着は洋服でも和服でもと意外にバリエーション豊富。仕事着も作務衣を簡略化したようなもので、地獄ではまず袈裟を纏わない。

 着るのは基本的に『ある期間に、地獄以外でだけ』だ。

「……わかった」

 淡々とニーチェは頷いた。

 上官が何を言いたいかはわかっている。だが、わかった、といっても仕事をすることに対しての理解であって、上官がなぜその言葉を選んだか、彼にはわからない。大きく息を吸って、もう一度口を開いた。

「地獄だと、10月に此岸へ行って人を殺してくるのを『袈裟を着て行ってくる』と言うのか?」

「おう。さすがに『ちょっと人殺してくる!』とか言うと人聞きが悪いからな」そう言って、上官はちょっと目をそらして口の端を歪めた。照れ隠しに笑うような、何かを睨みつけるような表情だった。

「……で、『殺す』を『袈裟着て行く』にすると抵抗がなくなるやつがかなりいるってわけ」

 なるほど。やがて抵抗がない方の言葉が定着し、誰からもそちらが当たり前になる。どこでも聞く話だ。もう一度ニーチェは頷いた。

「いいさ、殺してきてやる」

 おう!サンキュな!頼んだぜ!条件反射でそんなノリのいい返事をしかけたところで脳に言葉が届いた。

「いいのかよ!?」

「いいのだよ」

 ニーチェは両手でピース、つまりダブルピースを作っている。しかもやたらとキメ顔である。同性ですら見とれる美貌だ。しかしやはり、イケメンのキメ顔はもっと別のシチュエーションで見たかった。そう、ダブルピース以外で。

「え、ちょ、だってお前、前世人間でしかもその記憶はあるんだろ!?良心の呵責はどこ行ったよ!?」

「あるのはあるが、仕事だしなあ。仕方ないよなあ。与えられた状況と装備の中でできる限り任務を遂行するだけだ。何より、その前世から俺はずっと信頼と実績の殺人兵器だぞ?経験者ということで、むしろ多めに回してほしいくらいだ」

 そういえば、と思った。こいつは死ぬ前から鬼畜だった。人間だったけど鬼畜だった。いや、そもそも数ある魂の中からこいつを選んだのはそれがあるからだった。

 此岸で、人間は魔法を封じられるが、科学、つまり火器は健在だ。戦車も戦闘機も爆弾も、今は驚くほど進歩している。鬼はかなり丈夫に作られているとはいえ、痛いものは痛いしケガだってする。できたらこういうものとはまともに相手をしたくないのである。

 突き詰めると鬼が武装すればいいだけの話だが、そうもいかない。彼らが此岸に出るには角度の空間を通らねばならないからだ。

 入って出ると行きたい場所へ着く便利な空間だが、制限もある。

 あまり大掛かりな機械だとか、大きさのあるものは持ち込めないのだ。正しくは持ち込めはするが、角度を通り抜けるとぐにゃぐにゃに変形してしまい用をなさない。

 つまり、錫杖と太刀が限界なのである。くわえて鬼は武器に疎く、技術が発達していない。小型の銃が作れないのだ。いや、亡者を鞭打てばどうにか作れないこともないが、ああいった細かな機械は鬼の性に合わない。

 この問題点、天帝が健在であれば「人類が進歩してきたんだからしゃーねーな。んじゃ俺っち、ちょーっと角度の次元いじくってくるわ」と即座に解決しただろうが、その天帝は脳死している。

 なお現在も天帝装置を研究・運用している天使たちに依頼してどうにかしてもらおうとはしているが、天使たちは使い捨てだ。たのみの大天使すらもまあまあの周期で代替わりしてしまうためあまり捗々しくない。

 なら鬼が魔法を使えばいいんじゃないか?

 魔法が使える鬼、ニーチェを作ったのはこういった事情もあったのである。鬼の体にラムダ系を仕込むだけなら簡単だった。しかしそこを流れる魔力は魔神にそれを授けられた生き物しか持っていない。というより、どうも魂から来ている。

 小動物の前世を持つ魂を用いて何体か試作したところ、彼らの魔力は前世で有した魔力に大きく依存した。魔力は欲望の力、つまり知能に依存する。魔族は死んでも冥界に来ないから、人間か、それに次ぐ知能を持つ生命体を材料にしたかった。

 ここへ現れたのが魔導師の亡者だ。

 当初は地獄にいる亡者のどれかを使うことにしていた。しかし魂自体も貴重品である。試作したときの魂も天使が数人96時間労働して元の魂に戻し、輪廻に押し込んだほどだ。

 一度変質させて鬼にするとその魂はもう転生できない。寿命が青天井だからだ。それでなくとも生き物が産み殖え地に満ちて新品の魂を作らねばならなくなってきている時である。鬼にできて、一つ。

 しかも魂を変質させるのだってちょちょいとできるものではない。一度魂を壊して、部品を足したり引いたりしなくてはならない。

 さらに、すべてうまく行ったとしても元が人間の鬼が人間を屠れるのか?という問題が残る。戦乱の時代ならば違っただろうが、現在の人間には同種であるほかの人間を攻撃するのを躊躇わせる一種の回路が脳に通っている。

 最初から魂がそこそこ壊れていて、生前から殺しまくっている魔導師の亡者はこの課題をクリアするのにうってつけだったというわけだ。

「ああ……そお……頼んだよ……」

 わけだが……やっぱり複雑だった。

「任せろ!」

イルマ「い、いや!本編なのに9話連続で主人公空気とか!そんなことないからっ!字数の問題で!前後話に分けてるから!ちょーっと長く見えるだけで!実質7話だから!ぜ、全然大丈夫だから!」

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