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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
持ち込まれた大釜
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鬼法師 その1

 地獄です。というか、単純に前の続きです。

 その1ってことで嫌な予感がしている人がいるかもしれません。あなたの直感は正しいです。長すぎたので、二話に分けています。

 水族館に来たつもりのニーチェはベンチを具現化してすっかりくつろいでいる。直径が子供の背丈くらいある丸太を断面の円の四分の一ほど削ってなんとなく座面と背もたれがある、雑なつくりながら若干メルヘンなベンチだった。せっかくなので座ってみる。

 体が触れる部分は滑らかな仕上がりだった。体重をかけても倒れない。どうやら処理されていない樹皮が滑り止めのように働いているらしい。

「なー上官殿」

 なんだー、と聞き返す。隣から大きなあくびをした気配がした。しかも何だか温かい。

「ねむい……クッションが欲しいな」

「魔法で何とかならないのかよ」

「何でもかんでも魔法に頼るな……」

 ニーチェに言わせると、魔法使いが格言として言いそうな言葉はどこまでも面倒くさそうに、というより面倒以外何物でもないかのように聞こえる。

 心底面倒くさいんだろう。夢がまた一つ壊れた。

 夢ブレイカーの方ではここでまた一つあくびをして、くきくきと首を捻る。

「大体、俺は消具は得意だがそれ以外の具現化は苦手だ。人工物でもなんでもあまり複雑なものは作れん」

「えっ、消具って具現化の高等技術みたいなやつじゃねーの!?」

「大体そうだがちょっと違う」あくびをかみ殺して、背筋を伸ばして座りなおした。これは話が長くなりそうだ。上官は覚悟を決めた。

「個々人の魔法に対する得意不得意は覚醒時の状況によって左右される。つまり最初に使った魔法がそいつにとって一番簡単な魔法になるんだ」

 上官の目がぼよーんと離れてきた。駄目だ、わかってない。そして眠たくなっている。もっとわかりやすく言わねば……ニーチェは必死で言葉を探す。

「えっと、俺の場合、覚醒があれだったから最初に使った消具が一番得意なんだ。あれに限っては初歩として教えられるどの魔法より自然に扱える。だがやってることとしては真逆だから具現化は苦手だ。そういうことだ。それだけなんだっ」

 元通りの位置に慌てて戻った上官の目は必死の形相を示す端正な白い顔を捉えた。正直、途中から意識が飛んでいた。何の話をしていたか必死に思い出す。

「お、おう。よくわからねーが、お前が具現化が苦手ってことだけはわかったぜ」

 やっぱりさっぱりだった。

「わからん……!?今ので!?わからんというのが俺にはわからん……!」

 かすれた声を上げ、ニーチェは頭を抱えた。金色の髪がくしゃくしゃと十指に絡まる。そんなに悶えられてもな。俺も理解しようとはしたんだけどな。

 上官は言い訳にもなっていない言い訳をして、もそもそと口を動かした。だって、仕方ないし。俺魔法とか知らんし。もそもそ。

「……ところでさ、自分の弟子には何から教えたわけ」

「使用頻度が高いわりに難しい銃の魔法……だがその前に奴は死霊術を勝手に覚えてたな。まっ、手順を脊髄にしっかり刻み込んでやったからこの先苦労はするまいが」

 おそらくは無意識に胸を張るニーチェをほほえましく見守る。基本的に自尊心が屈折しているが、弟子については素直に誇っているらしい。そう思うと少し言いづらいが、どのみち変わらない。言っておこう。

 後半へ続く。

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