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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
快楽の泉
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足りないもの 2

 本編です。やっぱり『これも』足りませんでした。

 参鶏湯は何人か分をまとめて作っているらしい。

 イルマの知っている作り方としては、内臓を取り除いた丸鶏の腹の中にご飯と棗や高麗人参などの薬味を詰めて寸胴鍋で煮込む、だ。

 師は炭火主義だったから元気なころは木枯らしの吹くビルの屋上で鍋を七輪に載せて震えていた。コートなりマントなりを羽織ればいいだろうに、なぜパジャマのままだったのだろう。特に何も考えてなかったに一票。

 だがここではどうなのだろうか。ひょっとしたら鍋ごと蒸しているのかもしれない。

 とにかく、運ばれてきた時には鶏はバラされて、粥の中に棗などと一緒に浮かんでいた。棗は赤いから、一番目立つ。おお、旨そうだ。

 思ったより減塩レシピだった……塩コショウが恋しい。

「いいんじゃないですか、先生の好物ってどれもこれも生活習慣病を招きそうですし」

 神こってり白濁系背油びっしりウルトラ豚骨チャーシュー大盛り味玉付きニンニク油マシマシすりおろしにんにく付きスタミナのつきそうな中太ストレート麺然り、豚トロ山盛り定食然り。

「あれは好物ってわけじゃないよ。疲れたからね、体がエネルギーを欲してたんだ」

「だとしても女子が食べるものとしてどうなんですかあれ。引かれますよ、大食い少女キャラは。せめてスイーツにしましょうよ」

「勝手に引いてりゃいいじゃん。大体スイーツとかよく食う女って短気で怒りっぽいっていうよ。そして私はもっとストレートに脂肪と糖を摂りたかったんだよ」

 ラーメンで言うと、麺が糖、スープやチャーシューが脂肪だ。脂肪と糖の組み合わせは旨い。もちろんこのほかにもたんぱく質や無機塩類など、さまざまな栄養分が含まれている。

「それにしばらく男関係はいいや。世の中では11歳は妊娠できるとか十代を過ぎると卵子が腐るとか言うけど、母体としては成長途上だからね。ガキに栄養やったら骨や内臓がスッカスカになるに決まってるのさ」

「恋愛=繁殖ですか……女性差別とか言われますよ」

「差別、ねえ。まったくそんな話してないけどね」

 イルマとしてはこの一日で温泉を制覇する心づもりでいたのだが、北の四天王周辺を回ったところで石油王が飽きてしまい、日が落ちる前に民宿へ帰ってきた。パトロンには従うイルマだった。

 あえて言おう。『ゲヘナに横たわる子羊』は『レイインレイン』と読み、また打たせ湯であったと。あれはよかった。かなりほぐされた。

「君がうるさく言うから海に来てみた結果がこれかい」

「民宿でだらだら過ごすのも乙なものじゃないですかね」

 ユングは既に部屋着と決めたらしい浴衣に着替えてさっさと延べた床に寝ころんでいた。俯せのその姿勢がぷにぷにの頬と合わさりアザラシと重なる。

 だらけている。だらけきっている。だらけきる。アザラシ。ゴマフアダラケ……ちっ、大して面白くない。しかもそんな生き物いないから恒例の魔物図鑑も垂れ流せない。

 ゴマフアザラシという実在の動物に関してここで講釈を垂れてもいいが、読者諸兄はこんなところでそんなもの読むより、少しここを離れてお手元の図鑑を活用した方が有意義な時を過ごせるであろう。

「春ごろのあのウザさ……元気さが嘘みたいだね。どうしたのさ?」

 朝顔柄のアザラシがころんころんと寝返りを打った。最終的に横向きになって止まる。どうしよう、とても南極圏に置き去りたい。

「何だかやる気が出ません」

「あー、じゃ夏バテかもね。あんまり痩せると南極の冬は越せないよ」

「何で南極なんですか?」さて、とか、場合によっては自分で考えなアザラシとか、とにかくまともに答えなかったと思う。だからユングはあの柔らかい頬を膨らませてみせた。「先生にとって僕って何なんですか」

「うーん、足手まとい?」

 ぐはっ、と変な声を出してアザラシは仰向けになった。降参なのか。降参して腹を見せるのは犬だぞ。

「嘘だよ。悪霊の時はルアー役ご苦労様だったし、依頼の数合わせにも使えるし、料理も洗濯も掃除もそれこそ家事と名の付くものは一切してくれないけど実家のおかげで家計は潤ってるし、感謝してるよ」

「事実上の戦力外通告ですよね……捨てないでくださいよ、もっと頑張るんで」

「おう、頑張れ頑張れ」

 そう、足りなかったのは『カロリー』ッ!糖分も脂肪も太りまくって間口に挟まろうが床板踏み抜こうが食べると旨いのです。やめられなんだ、これが。

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