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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
海へ行こう
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浮気とすれ違い

 本編です。水着回の終わりです。次回から章が変わります。

「あります?海水浴びなくて済むところって」

「ないねえ。……ひとつ温泉地獄村ってあるけど、有料なんだよね」

 何それ?興味を持ったらしいので、そのページをめくってやる。

 温泉地獄村。読んで字のごとく、ありとあらゆる温泉を詰め込んだ温泉による、温泉の、温泉のための快楽と灼熱の狂宴。つまりは温泉テーマパークである。

 まあまあ広い敷地内に八つもの源泉がまったく違う性質を持って存在する。近年一か所からこんなに多くの種類の温泉が出るのはどう考えてもおかしいということで最新科学のメスが入り、匙が投げられた。

 最新魔術のメスは地下に空間の歪みが存在していることを突き止めた。どうやらファンタジーの産物だったらしい。

 敷地内にあるのは浸かって楽しむ温泉だけではない。ダークブルーをした摂氏498度もの熱湯をたたえる『ウルトラマリン』や、数時間に一度熱湯を噴き出し、周囲に含有する成分の赤い結晶を作る『ブラッディメアリ』。

 井戸を掘ったら深いところで温泉につながったという伝説を持ち、本当の意味での温泉卵が作れる『スカイコフィン』と、白濁した38℃前後のぬるま湯が一定の量湧き続ける『スノードロップ』などの見て楽しむ温泉もある。

 これらは東西南北に一つずつ配置され、まとめた通称を温泉四天王という。行くからには倒さなければ……いや、見てこなければならない四つだ。

 泥パックが楽しめる『マッドグロウ』というゾーンがあったり、温泉の上に作った木の床に薬草を敷き詰め、そこから上がる湯気を楽しむ『グリーンロア』が人気第一位。もちろん普通の風呂もあるので、イルマとしても興味がなくはない施設である。

 しかし入園料が高い。大人90カウロもするのだ。日本円にすると4500円前後。しかも割引がきくのは小学生までである。そもそもの客層が客層なのでシニア割引などというものは存在しない。

 家計もその双肩に担っていた病み魔法使いが療養に勧められるも顔をしかめて立ち去っただけのことはある。

「二人で180カウロ。こんだけ施設が充実しててこれなら安いじゃないですか、一緒に行きましょうよ」

「金銭感覚が別次元だよ。しかも私もかよ」

「そういえば先生は貧乏人でしたね。仕方ないからおごってあげます」

「めっちゃ上からだな。ていうか私がついてくことは決定事項なのかい、ええ?そこはっきりさせたまえ」

 身を乗り出し、頬がくっつきそうなくらい顔を寄せて、ユングはぼそぼそとささやいた。

「だって一人とか寂しいし……一緒がいいです」

 白玉のようなその頬をぺちぺちと叩く。しっとりと指に貼りつくようだ。

「あ?だったら頼み方ってもんがあるだろ?言わなきゃわかんないのかい、この愚図は」

「一人で行くのは寂しいので一緒に来てくださいお代は僕が払いますっ、ぅう」

「よろしい。おみや代もよろしくね」

「えっ!?……うぅ、はい」

 従業員にたかる雇用主がここにいた。なお、夕食を持ってきた民宿のおばちゃんには仲の良いカップル風に見えた。姉さん女房か――彼女はイルマがユングより一つ二つ年上だと思い込んでいる。

 おばちゃんの思い違いとしてはほかに『どうしてあの子お父さんのこと師匠って呼んでるのかしら』というものがあったりする。まるで似ていないのに実子だと思われていた。

「それには書いてないけどさ、カップル割引ってあるからちょっと安くなるらしいよ」

「そうなの?おばちゃんありがとう」

 つまりおばちゃんの中ではユングは『なぜか師匠呼びだった父親の形見のお揃いの浴衣を着ているイルマの年下の彼氏』ということになっているのである。そしてイルマの中でおばちゃんの発言は『男女二人の組み合わせで行くと安くなるよ』という意味だった。

 ひどい勘違いであった。

 なんと、次回は温泉回!

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