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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
海へ行こう
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魔性のアルバイター

 本編です。よくわからないものに出会います。いやなに、コルヌタ界隈ではよくあることです。

「ツケっすねーありあてやしたー」

 バイト弁というのか、特徴的なあの雑な調子で言いながら青い肌のお兄さんが焼きそばを手渡してくれた。魔族か半人かはよくわからない。

 イルマは箸巻きにした。これは簡単に言うと箸に巻き付いたお好み焼きである。

 さて、このお兄さんには見覚えがあった。正確にはお兄さんの顔と肌の色とバイトにあるまじきありすぎる威厳と悪魔的な造形の角と縦に裂けた瞳には見覚えがあった。

「お兄さんひょっとして……コンビニのひと?」

「うむ。汝は……」

 お兄さんの方でも見覚えがあったようだ。ということは、こんなところでもバイトをしているのだ。何ていうか顔が広い。お兄さんはちらりとシフト表を見た。

「しばし座して待て。ほどなく朕のシフトが終わるゆえ」

「はーい」

 箸巻きを食べながらユングとしょうもない雑談をしながら通称コンビニお兄さんを見守る。

 町内では座り込み客に激昂したり、生真面目に側溝を掃除したり、コンビニ以外でもピザの宅配や家庭教師もやってたりで今のイルマほどではないが有名人だ。

 どう見ても二十代半ばに届いていない若々しい容姿にも関わらず「らっしゃーせー」「これ温めぁすかー」「全部ぇ12カウロになりぃす」「とーてんのポイントカードお持ちっすかー」「ありあてやしたー」などのバイト的定型句以外は昔の偉い人みたいな重々しい口調なのも特徴的だ。

 背中には蝙蝠のような翼まであってコンビニの制服が壊滅的に似合っていない。今はアロハシャツだがやっぱり似合っていない。きっと漆黒のマントとかそういうののほうが似合う人だ。

 しっぽがあるのかないのか長いこと謎だったが、早朝に近所のアパートのベランダにパンツ一丁で出てきて洗濯物を干しているのを見たことがあり、イルマは細長い尾が生えているのを知っている。おそらくズボンの下に収納するか、宇宙人よろしく腰に巻いているのだろう。

 よろめいているおじいちゃんおばあちゃんをおんぶして目的地まで送ってあげたり迷子の小学生や家出した幼稚園児を保護したり、弱者にもかなり優しいから魔族ではないようだと認識されている。

「魔族だが。当たり前であろう、朕の血は青いのだぞ」

 認識されているが魔族だった。よく考えたらそれもそうだった。

 ところ、海の家のテラス部分である。四人がけのテーブルを一つ占拠しているが、夏が楽しめなくて自棄になったユングがバケツ大のかき氷に挑戦しているし、コンビニお兄さんはジュースとフライドポテトを自腹で買ってきたから文句は言われまい。

「あ、そうだったんだ。みんな、お兄さんは半人だと思ってるよ。弱いものにも優しいから」

「なるほど。人間は我らを優しくないものと認識しているのだな」違うの?魔界は弱肉強食の世界だったと思うけど。そう言うと彼は薄く笑った。

「それは違いないが、話にもならぬような弱者に恐れられたところで面白くも何ともなかろう。ちょっと小突いたら死ぬような奴らに大技を繰り出しても空しいだけぞ」

「へえー」

 人間界で長いだけ具体的だ。隣で四苦八苦しているどっかの魔族Aよりだいぶ参考になる。

「朕とて闘争の悦びを忘れたわけではない、がソレに身を任せるとこちらで生活できぬのでな。ふふ、早く正社員になりたい……」

 諦めの響きが聞こえた。そういえばこのひとはイルマがハクトウ町に来る前からフリーターを続けている。少なくとも7年だ。そりゃあ諦めるだろう。

 これから仕事が増えたら従業員として引き抜いてあげようと思った。うちは会社じゃないから社員にはなれないけどね。

 ありんこは過去に二度、バイトの面接を受けました。


 両方落ちました。

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