めたもるふぉーぜ再び
本編です。
海の家で比較的陰になるところの砂浜の上に転がしてみる。ちょっと緑色が薄くなってきた。目が薄く開く。白目の部分が黒く変色しているのは充血とかではなさそうだ。
「もしかして……うっかり海水と同化しかけた?」
「ちょっと違います」目を閉じてくるりと寝返りを打つ。なぜ日向へ向かうのだ。「……ウンディーネって、水の精でしょ」
「ああ、うん」
ぬるぬるした層がどんどん減って、肌が白く戻ってきた。乾かしているらしい。
「んで、海水って、水道水より有機物とか多いじゃないですか……半人の体でもばっちり魔族の血が活性化されちゃうんですね。人為じゃなくて自然に変態が起きちゃうんですね」
ただでさえ変態なのにか。心の中に明確に形をとったもやもやを押し込める。その話、今してない。
「原因はわかってるんだ……なのに、防げなかったんだ?」
「信じたくなかったんです。淡水もですね、一度川に入ったらこうなりました。井戸水は大丈夫みたいですけど……海は行ったことなかったからけっこう期待してたんですけど……はは、自然界の水には浸かっちゃダメってことですかね」
夏が楽しめない男だな。ひとまずそう思った。ついでにあの海へのあこがれも謎が解けた。かわいそうだからかき氷でも食わせてやろう。ああ、それは前回キーンってしてたか。どうするんだお前。
「ちなみにそれ、何が起きてるの?」
「皮膚とか爪とか水が直接触れた部分から人間の組織がウンディーネのそれに置換されてます。目もですね。
「ここ、涙という名の生理食塩水に常にさらされてますから、他のところが活性化すると一緒にこうです……もちろん細胞がどんどん入れ替わってるからかなり疲れます。お腹減ります。
「で、今は日光と乾燥にさらすことで、相変わらず人間バージョンの内臓やら筋肉やら網膜やらあの辺を守るために人間の組織が復活していってます、ね」
今回は戻るのが早いです、とちょっと嬉しそうだ。海に入った後塩分をそのまま肌の上に置いている状態だから塩害的なものからも頑張って防御しているのだろう。
だってスライムとかも塩まいたら縮むし。
「最終的にはエネルギーを使い果たして変態途中で死んだりとか?」
「いえ。あの青のヌルヌル、光合成も通常の三倍やるんでエネルギーには事欠きません。空腹感で人を食うかもしれませんが、基本的には放置30分くらいで二体目のウンディーネが爆誕していただけです」
それは人間としては死んでないか?
「君、けっこう簡単に人間辞めるね」
「その場合も寿命は普通に人間程度なんですけどね……」
「洞窟の時のとは違うわけ?」
「ええ、あれはなってる状態となってない状態を自分でコントロールできますから。海の家で焼きそば食べましょう。お腹減りました」
ほとんど元の白い肌に戻ったユングが身を起こした。もう大丈夫らしい。じゃあ海の家へ行こう。
財布はないがお代は民宿の場所と電話番号と名前を言ってツケておけばいいのである。そこの民宿とは提携しているからこういうこともできる。あの民宿、どれだけ機能的になったら気が済むのだろう。いや、助かるけど。
海水浴は意外と危険なので気を付けましょう。とくにファンタジーの場合。