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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
愉しい、日常
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日々の糧

ちょっと遅れたけど書けました。3000字以内に短くまとめられたはずです。

「お譲ちゃん、お譲ちゃん。もう終点だよ、起きなさいよ」

「ふえ!?」車掌さんに起こされた。不覚にも眠ってしまったようだ。だが計算通り。目的の駅にはたどり着いた。「す、すいません!」

 ただ単に目的の駅までしか行かない電車を選んで乗っただけだけど、生活の知恵だ。

 次の仕事にはしっかり間にあった。ユングを叩き起こして引きずるように電車を降りる。ホームの階段を下りる。

 大量発生の魔物といえど、こんな辺境ともなれば町には壁があるし、高架上の駅にまでは来ないようだ。こんな時代ともなれば対空防護結界もあるわけだし、来たらびっくりするけどそれは言わない約束だ。

 コルヌタの地方都市は串に刺さったお団子のような形をしている。串が線路と幹線道路でお団子が町。それ以外の土地はまあ、ほらあれだ。

 閑散とした荒地だったり魑魅魍魎の跋扈する毒の沼地だったり真っ暗な森があったりゴルフ場があったりするのだ。共生する一つの方法である。

 この仕事、イルマたちの側からは壁の上からただ一方的に蹂躙するだけである。

 高位魔法の雨を数時間降らせた後地上に降りて、残党や手負いの魔物を掃討する。この作業は進捗度にかかわらず第二波が来る前に切り上げて壁の上に戻る。第二波が来たら再び高位魔法と、これだけだ。

 これを第三、四と十分に数が減るまで続ける。この説明を繰り返している間ユングがちょっと嫌そうな顔をしていたようだが支障はないはずだ。ないと信じたい。

 なるほどこのやり方は卑怯かもしれない。しかし、イルマたち魔導師というのは魔法の国家資格を持っているだけでベースとしてはただの人間にすぎない。卑怯でいいのだ。全然問題ないのだ。

「そいやあ!」

 相変わらずイルマの魔法は同時多発的に発動するあの技だ。とはいってもやたらめったらに撃っているわけではない。相性も考えて、色々な種類を狙った方へ飛ばしている。

「もはや必殺技ですねえ、それ!」

一方のユングは一つずつ魔法を発動している。どっちも詠唱なんてしない。「そぉい!」とか「どっこいしょお!」とか「うぇーい!」とか気の抜けた掛け声が入るだけである。詠唱では時間がかかり過ぎるのだ。

 この場合は鉄筋コンクリートの壁を突破される前に数を減らさなければならない。そういう制約付きだ。

 必殺技、という言葉に反応した。それは違うと思う。ハネツキトカゲの時にも言ったようにただいくつかの魔法を同時に発動しているだけなのだ。

「威力だってひとつひとつは、一発ずつ撃つより落ちるよ。やっぱり基本がいっちばーん!」

「そうなんですか!?」

 下界はまるでバラバラ死体のバーゲンセール。死霊術師以外の皆さんには嬉しくない。この死体の処理も頭の痛いところだ。

 魔界とお隣さんでずっとやってきた、というより歴史上の多くの場面で人間側の他の国々から魔界ごと隔離されていたコルヌタでは魔物の体を隅々まで利用する技術も発達した。しかし、である。

 あまりに損傷がひどいと、使えるものも使えないのだ。ここの場合だと、……踏み荒らされて毛皮などはまず再利用不可だ。食べられないし。

 角も牙も一応完全なものに高い売値がつく。それだけならまだいい、神聖大陸にあるレガニ公国だとか、ボルキイ神聖帝国とかならこれでも多少安くなるだけで売れよう。

 しかしここは最果ての地の小国コルヌタだ。魔物の角だの牙だのそういうのはありふれている。

 ボルキイあたりで美術品として高値でやり取りされるオオツノゲラダの角はぐつぐつ煮込まれて一般家庭の鍋の具材になる。鍋の種類は豆乳でも水たきでも何でもいい。

 さてゲラダというのはサイに似た魔物で、オオツノゲラダというのはその希少種だ。図鑑ではそうなっている。ただコルヌタではゲラダを見ない。サイも動物園以外では見ない。見たとしてオオツノのほうである。

 師もよくオオツノゲラダの角が入ったおでんを作っていた。食感が似ていて牛筋より安いのだ。

 他にもこの前のハネツキトカゲ。これは世界各国どこにでもいてどこでもウザがられている。しかしこの国に限ってどういうわけか、これを調理して食べた。名状しがたい味がするがおいしい。

 捕えた場所によっては臭みがあるため軽くコショウを加えるのが定石だが、たいていの場合捕まえたその場で〆て頂くのであまり気になったことはない。

 ちょっと田舎に行けばその家のお父さんが獲ってきてくれる。巨大化でもしない限り危険な魔物でもないのだ。

 スライムも食べられる魔物としてポピュラーだ。簡単に捕まえることができるからだろう。

 火を通さないと青臭い、変な味がするけれど火を入れると甘味が出る。千切りにして肉やピーマン、あとニンニクの芽と一緒にいためると変則チンジャオロースーの出来上がり。

 他にも大量に捕獲してゼラチンを作ったりする。世のお姉さんたちが作っているプリンやゼリーの大半の原料はこれである。

 故に欠けた角・折れた牙を持って行っても売れないどころか怒られる。ボルキイから来たお兄さんがここで苦労して倒した魔物の角や牙を適当に袋に突っ込んでその辺の問屋で売ると、ふざけてるのか、とよく言われるのだ。

 というのはまあ、前置きで。一番言いたいのはこれだ。腐敗臭対策、どうしたらいいだろうか。

 頭痛い。頭痛が痛い。燃やしつくす?死体は水っ気があるからなかなか燃えないし煙が公害レベルだ。埋めるの?全部ですか?オーバーワークって言葉知ってる?

 あれこれ考えた末に、ゾンビにして森一つ越えたところへ歩かせ、一気に燃やすことにした。高温の炎でやれば煤煙もいくらかマシだろう。

 そのあとのことなんて知らん知らん。気にしてられるか他に仕事もあるのによ。仕方ないじゃん自営業なんだから。

 師はさらにここから煤煙を吸収するフィルターを具現化していたがイルマ達にそんな魔法は使えない。諦めてくれ。

 次は傷を負った民兵の治療。病院が足りないらしい。こちらの仕事はこれといってトラブルもなく、あっという間に終わった。

 それにしても意外に生き残っているものである。いつもはこの人たちもスーツ着て愛妻弁当でも持って会社で働いていらっしゃるのに。階段の上り下りってそんなにしんどいのかな?

「はーい、最後おじさんね。腕見せて」

 この人の傷は、ただの骨折。利き腕だから、確かに日常生活に問題は出そうだが大したことないと思う。そのうち治るだろうし。腕がないとかそういうのに備えてフロイトさん出したのにどうしよう。

 トラブルもなさすぎるとうすら寒い。もっとひどいことになりそうだ。

世界には「何でそれを食べようと思った?」ってなるような変な(失礼)料理がありますよね。日本にも。


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