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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
海へ行こう
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告白

 本編です。ちょっとロマンチック?

「……じゃあ頼んでみようかな」

「わーい!じゃあ早速……」

 少し真面目な顔になったユングがきゅるきゅると何だかよくわからない音を発し始めたのでイルマはとうとう気が狂ったかと思ったが、しばらくしてそうではないことに気付いた。

 短縮された詠唱だ。コルヌタ語ではない。何を言っているのかはよくわからないが、漢字のように意味を一音に圧縮することで詠唱時間を縮めている。

 大昔の文献でちらっと見たことはある。が、その文献にも「こんなん覚えるよりか練習して無詠唱で発動できるようにした方が早くね?」というようなことが書いてあったので現在はほぼ使われていないはずだ。とすればずいぶん古風な技術を持っているものだ。

 同じ音が何度か繰り返されているところを見ると、ボルキイ語で言う『the』やコルヌタ語で言う『てにをは』に相当するのだろうか。あと呪文の詠唱でよく使われる単語は……あ、だんだん意味わかってきたかも。

「はい、終了です!」

 もうちょっとで意味が分かりそうだったのに詠唱が終わった。ちょっと惜しい気になりつつ脇に触れてみる。数年ぶりに毛のない皮膚が指先に触れた。ねっ?と少し得意げなのが何となく腹立つがここは素直にすごいじゃんと称えておく。

 不思議なことに、民宿の日に焼けた畳には毛など散っていなかった。

「ねーユング、これ何て魔法?できたら覚えたいんだけど」

「たぶん無理ですよ」あっさり否定された。

「だって先生具現化使えないでしょう?消具は覚えられませんよ。僕だって毛みたいなあってもなくてもよさげなものくらいしか消せないから実戦じゃ使えないのに」

 何を言ったのか理解できなかった。無言で目の前の半裸を見つめる。ユングは鼻の下を人差し指の第二関節でこすった。

 照れんなうっとうしい。

「やっぱ先生には言っておくべきかなって、タイミングを見計らってたんですけど……言い出しづらくって」

「いやいやいやいやちょっと待って何がちょっと、え?追いつけないっていうか何言ってるのかわかんないな!?」

 イルマの思考はさっきから結論の一つ前で空転している。具現化?ん?わかるようなわからないような変な感じだ。え、何て?タイミングを見計らった?タイミングを見計らってそれで今とな。わけがわからないがとりあえずこれだけは言える。

 大丈夫か、こいつ。

「もう気づいてらっしゃるもんだと思ったんですけど、先生って鈍感ですね……」

 のっそりとユングは腰を折り、心なしか、そう本当に気のせいかもしれないくらい少しばかり優雅なお辞儀のポーズをとった。

「今となっては王もない国ですが、コルヌタの第一王子ということになっています。祖父はフロスト、その兄はフロイト。実存の魔導師は鳩子に当たります」

「……」

 イルマは反応に困った。

 困る。まず内容が重い。困る。そのうえ相手は海パン一丁のおにーさんである。こんなこと言われてもネタにしか聞こえない。その前の消具がなかったら「何言ってんのこのおバカ」で終了している。

 しているが、だとすればどうして消具の詠唱時間を知っていたのかのつじつまが合う。合うが、スイカパンツの人に言われるとやはりネタにしか聞こえない。

「あ、他言無用でお願いしますね。今の時代王が復活なんてことになっても何にもいいことないですから。たぶん、象徴とかそういうのに担ぎ上げられて生存権以外の人権を否定されるだけなんで。僕はまだ人間界に住むかどうか決めてないし選挙権もほしいし四六時中カメラに追っかけ回されるとか被災地回るとか嫌なので、ね」

 やはり本気で言ってるらしい。本気か。本気で言っちゃってるかこの子。しょーもない冗談にしては話が大きいし意外と真面目なことを言っている。ああやっぱり本当かもしくは彼の中では本当パターンか。勘弁してくれよ。

 大体王家ってほら、こう、犬みたいな感じではないと思うんだ。百万歩譲ってもボルゾイ犬とか、ああいうお上品な誇り高そうな感じの犬だと思うんだ。

 ユング……ユングはもっと違う犬の感じだ。牧畜に使役されるボーダーコリーとか、ああいう犬だ。それも両耳をピンと立ててばっちり羊を追ってるコリーではない。

 お金持ちの庭で番犬とかしてるちょっとお間抜けな感じの犬だ。耳がぱたんと伏せてるやつ。人と見たら喜んでしっぽパタパタ振るやつ。人馴れして十分くらい平気でモフられてるやつ。呼んだら「なーに!?ごはん!?ごはんなの!?」って走ってくるやつ。

 犬っていうか、わんこだ。

 その点ししょーは何となくただ人ではない雰囲気というか、まあ大量破壊兵器であってただ人じゃないのだが。そう、何となく高貴な品のいい空気を醸し出していた。彼が王家なのは不思議と納得がいく。

 動物で言うと……駄目だ手負いの母熊子連れエディションくらいしか思いつかない。

 とにかく、こいつには王家感とでもいうのだろうか、そんな雰囲気がみじんもない。

 さんざん困惑と混乱に見舞われた末に、イルマは問題を先延ばしにすることに決めた。まずはもとのワンピースに戻ろう。買い物に行けない。

「わかった、黙っとくよ……本当かどうかはともかく、私も国民の象徴が君なのは嫌だしね。さて、サイズ合ってないことだし、水着買いに行くよ」

「お店ですか。好きですよお店。謹んで荷物持ちに励みますね!」

 持たせるほど買うつもりはなかったが、せっかく本人がやる気なので任せることにした。仕事をさせると喜ぶタイプの子なのだ。犬も人も馬鹿も賢明も使いようである。こいつは犬で馬鹿だけど。

 リア充への道は遠い。

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