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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
海へ行こう
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あこがれ

 本編です。あこがれてます。

 ブラムは本当に日が暮れるのを待って血だけ飲んで帰った。しかも話す相手は同性で話しやすいのかほぼほぼユングだった。言っちゃ悪いがモテない理由を見た気がする。

「何の話してたのさ」

「ガールズトークならぬボーイズトークですね。昔の貴族の初夜権とかの話してました」

 不死の吸血鬼の話題のチョイスが中学生だった。何ともむなしい話である。四世紀の時は彼の中に何を残したのだろう。

「ブラムさんは一回発動しようかと思ったけど、やっぱり初めては好きな人とがいい!と思って使わなかったそうです。で、今絶賛後悔中と」

「当時からこじらせてたんだね……さすがは非リア王」

「僕、多くは望まないけど少なくともああはなりたくないです」

 どっ、どどどどどどど童貞ちゃうわ!だそうだから予想通りといえば予想通りだが悲しい事実だった。ユングがきゅうと眉を寄せる。

「しかも、結局僕の血は飲んでくれませんでした。吸血されてみたいって言ってもダメでした……」

「ありゃりゃ」

 半人の血は口に合わなかったようである。

「これだから貴族は……」

 ぶうぶうと文句を垂れながらユングはソファに腰を下ろした。貴族だから味にうるさいんだろうとイルマは独り納得し、何をしてるんだかわからない夕方のバラエティ番組に目をやった。つまらなくてチャンネルを変えた。

 チュニだかフェルナだかの大統領なり首相なりがコルヌタは正しい歴史認識をとかなんとかいつものように演説を垂れていた。

 この人先月も似たようなこと言ってたな。電気代がもったいないからテレビを消した。

「そうだ、君お盆どうするの?実家帰るの?」

「帰りませんよう。大体こっち来る時だって説得が難航したんですよ?帰ろうものなら絶対みんなで僕を引き留めるにきまってますー」

 不機嫌そうに口をとがらせて見せる。

「おばあちゃんはちょっと説得したら『じゃあ行って来れば?』って言ってくれたんですけど、他の人たちが『駄目だ坊ちゃま!絶対駄目だ!』ってうるさくって。数人砂にしてやっと出てきたんです」

「愛されてるねー」

 なお、『砂にする』とは魔族の間でよく使われる言葉で『黙らせる』『袋叩きにする』『病院送りにする』くらいの意味である。相手に全治一か月くらいのダメージを与えて動けなくしたときが多い。

 ファンタジーな世界ではあるが、実際に砂に変えたわけではない。注意していただきたい。

「もうあいつら完全回復してるだろうから戻ると面倒しかありません。……じゃなくて」

 何かが違ったらしい。じっとイルマの顔を見る。メガネの向こうの空色の瞳がだんだん犬に見えてきた。番犬として庭につないでおきたいところだがうちに庭はない。保健所にでもそっと置いていこう。

「なに?」

「なにじゃないですよう!海!うーみ!僕海行きたいって言ってましたよねえ!何でもうお盆の話になるんですかっ」

「あー……忘れてた」

「ひどい!先生ってばひどすぎるっ!僕の純情を弄ぶなんてー!」

「海行くの忘れてたくらいでそんな言い方ないと思うしそもそも君はそんな綺麗なもの持ってなかったと思うんだ」

 でも海かあ。行きたいね。喜びの腹踊りをさりげなく視界から外しつつ観光情報誌をテーブルの下から取り出す。近いところだ。毎年のように師と行ったあの海である。ああユメナマコ懐かしい。

「民宿空いてるか電話してみなきゃね……あそこがないともう後はラブホか高いお宿しかないんだ」

 ちなみに、悪霊討伐の報酬は月末に振り込まれる。今は相変わらずのギリギリ黒字の自転車操業である。貧乏性も治らない。

「大丈夫ですよ!高い方しかなかったら僕が払いますからっ。だから、だから海!海を!」

 お前のその海へのあこがれは何なんだとか行くって言ってるだろうがとかいろいろな言葉が脳内を右へ左へ駆け抜けていった。ああ、聞くな聞くな。馬鹿とまともに話すと疲れる。

「はいはい黙って」

「はーい!」

 理解から最も遠い結果になるみたいですね。

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