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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
海へ行こう
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おかえりの日常

 本編です。あーやっとバトル抜けたんじゃー。安寧をむさぼりましょう。

 悪霊が消えた夜、帝都のラーメン屋に中高生と思しき男女の二人連れが現れた。

 まったく似ていなかったが、カップルよりは仲のいい兄妹に見えたという。案内されたカウンターで黙々とこってり豚骨ラーメンをすすり、食べ終えるとさっさと勘定を済ませて出て行った。

 というか、イルマとユングだった。

「……うう、血液が濁る……」

 黙々と食べたのは疲労のためである。別に深い理由はない。豚骨ラーメンだったのはなぜか食べたかったからである。やっぱり深い理由はない。

 ついでにユングの目が死んでいるがこれも疲労とこってり系ラーメンの胃もたれでありモブおじさんの関連はない。

「何、君って神こってり白濁系背油びっしりウルトラ豚骨チャーシュー大盛り味玉付きニンニク油マシマシすりおろしにんにく付きスタミナのつきそうな中太ストレート麺苦手だったの?意外だな」

「苦手っていうか嫌いです」

 大体のものは「変わったお料理ですねえ」で済ませてきたユングが鼻にしわを寄せて言い切った。ふうん変なの。すごくおいしいのに。

「何ですかあれは。何でしたっけ、神こってり……」

「神こってり白濁系背油びっしりウルトラ豚骨チャーシュー大盛り味玉付きニンニク油マシマシすりおろしにんにく付きスタミナのつきそうな中太ストレート麺」

 名前を聞く端からユングの眉間にしわが寄った。聞きはしたけど思い出したくないらしい。

「ああはいそれです、何とか完食はしたけどあれは食べ物ではありません。豚の脂肪の塊です」

「大体そうだけど」

 今回行ったラーメン店はこってり系の専門店で、業界では有名な店である。

 まず、メニューには「70歳以上の方は命の危険がございますので十分に注意してお食べください」の文字が躍っている。

 店によると「麺は弾力の強いものを使用しているため喉に詰まらせる危険がある」とのことだが、誰もが栄養的な意味合いだと思っている。逆にどうして70歳以下は大丈夫だと思ったと言いたい。

 こってり度合いには下から、豚・鬼・神があるが、最低ラインの豚ですらスープが見事に白濁しており、一般的な基準で言うこってりをオーバーしている。

 神ともなるとスープがドロドロしており、むしろ麺が浮く。ちょっと見ると山芋をおろしたものの上に麺がかかっているようにも見える。

 一応キッチンでこれを撹拌し、そこへ業界随一を誇る分厚いチャーシューをこれでもかと置き、最後には味玉と大量のもやしをこんもりと盛ってホールへ運ぶのである。このもやしが唯一の救いである。これがないと完食への道には茨が群生する。

 しかしただこってりなだけではない。スープになっている豚骨は牧場から探したこだわりの豚、さらに豚以外に様々な哺乳類及び魔物を使うことでクセがなく飽きの来ない味を実現している。麺も自家製だとか。

 チャーシューも一級品だ。脂身がほのかに甘い。味玉のクオリティも高い。濃すぎず薄すぎず、絶妙に客を魅了する。

 ラーメンの何かの賞をたくさん取っているが、こってりへのこだわりが強すぎるためかチェーン展開は規模が狭い。帝都にしか店舗がないのだ。

 ネットでも「自殺系ラーメン」「狂気の沙汰(笑)」と言われよく話題に上っている。「こんなことを言っても信じちゃあくれないと思うが……普通にうまかった」「年に一回くらい食べに行きたいな」「【緊急】その情熱をなぜ他のところに生かさなかったか【どうして】」とも言われている。

「僕はもう二度とあの店にはいきません。先生も控えた方がいいはずです」

 のだが、魔族系男子の口には合わなかったらしい。

 ちなみに今回イルマたちが食べた『神こってり白濁系背油びっしりウルトラ豚骨チャーシュー大盛り味玉付きニンニク油マシマシすりおろしにんにく付きスタミナのつきそうな中太ストレート麺』はそんな店の中でも最高峰のこってり度合いである。

 確認できる液面にはびっしりと背油が押しくらまんじゅうし、とどめにニンニク油とニラ油、生のおろしにんにくが唯一の救いであるもやしの聖域を侵している。別に完食しても食事代がタダになったりはしない。裏メニューでもない。

 店名を、「じぇのさいど」という。三日以上連続で来た客はまだいない。二日連続で来た猛者は最後に「ラーメンは毎日食べるものじゃなかった」との言葉を残し、田舎へ帰った。

「えー、おいしいけどなー」

「緩慢な自殺ですよあれは……うう、お腹が重い、井戸に沈む……」

 おお、もたれている。お風呂に入ってから寝てよねと釘を刺しておく。

 一応、軍の仮設テントで軽くシャワーを浴びたが、あくまでも軽くであり、石鹸すらなかった。にもかかわらずさっと浴びた水は赤とか茶色とかが混ざったえげつない色で床を流れていった。間仕切りの向こうのユングと大爆笑したあと背筋が寒くなったのを覚えている。

 砂埃やら血やらで汚れ放題である。このまま寝るのは恐ろしい。

「お腹苦しいからお風呂嫌です」

「ちゃんとお風呂に入ってしっかり洗わないと、お布団の激臭がマッハだからね」

「先生のコルヌタ語がゲシュタルト崩壊を始めていますね……」

 眠いから仕方ない。もう腹いっぱい食べたのだし、あとは帰って風呂に入って寝るだけである。国語が崩壊したって何の問題もあるまい。どうせ聞く奴はいない。

 髪をシャンプーで洗うと頭が軽くなった気がした。やっぱり汗と皮脂が出ていた。

 壁のタイルの目地がまだらに黒い。カビだ。そろそろ漂白しなくては。でも明日でいいよね。とにかく今日は放置!

 パジャマを着て事務所兼ダイニングへ出ると助手がまたソファで白目をむいて寝ていた。叩き起こして風呂へ押し込んでおく。

 イルマはベッドに横になってからふと気づいた。ユングには乳酸を流すマッサージを教えた覚えがない。明日筋肉痛でのたうち回っていたら気の毒だ。教えてあげないと、でも眠い。起き上がろうとしたところで完全に落ちてしまった。

 ごめんねユング。筋肉痛には耐えてくれ。骨は拾ってやるからさ。勝てないのだよ……眠気には。

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