リンカーネイション
地獄ソロです。回想がご無沙汰ですね。やっぱりそろそろいりますか。
「うーい起きろー」
最初にぺしーんと頬を張られる感覚があった。そこから、目、鼻、口、耳、首へと感覚が現れる。頸から下は……ない。
「気がついたか?ついてないなら廃棄しちゃうぞー」
目を開けた。廃棄されることに反応したわけではない。廃棄という言葉の意味を計りかねたのだ。それ以前に状況も呑み込めていない。
「何が起きたかわからねーって顔してるな」
わかるか。抗議を込めて浅黒い上官の顔を睨みつけた。そんな目で睨むなよ、と頭を撫でられる。撫でればいいと思うなよ。さっさと状況を説明しろ。
「うわ、顔全体で説明を求めるなよ……声が出ないから仕方ないとは言っても変顔大会みたいだぞ」
わかってるならさっさと何とかしろ。こっちだって好きで変顔をしているわけではない。ないが……ちょっと楽しくなってきたかも。
「覚えてないのか?ま、脳が駄目になって記憶一部逝ったもんな」
何か一人でうなずいていた。上官の方が背が高いので、こうしてまっすぐ目が合うのは新鮮な気分だ。
「現世でお前の死体が魔法を発動してさあ、そんで完全に破壊されたらしいのな。で、まだパスが切れてなかったお前もドカンだ」
ドカン?
「爆発したんだよ。中途半端に同期しちまったのな。腹のあたりからぼーんって飛び散って、マグロ拾いと清掃が大変だったぜ。おかげで課題が大漁だ。またお前の同類を増やすのが遠くなっちまって」
それで体が使い物にならなくなって――ニーチェは首から下の何もない空間を埋めている薄緑色の液体を見下ろした。その上の金属とガラスの基盤のような、蓋のようなものの上に生首が載っている。
体が使い物にならなくなって、首だけなのか。
現世に残した体を使ったのが誰かはわかっている。わが子のように愛しい。あれを除いて誇れるものなど彼の人生にはなかった。
「体の替えは用意してあったんだが、ジールのアホがテンパってすぐに知らせなかったせいで脳の鮮度が落ちてな……今のそれは新品だ。データベースになかった分は、つまり一番最近の記憶は消えてる」
一番最近。ということは、死ぬ前か。そういえば豚骨ラーメン作ったかどうかいまいち記憶にない。
「ラーメンなら旨かったぜ。スープしかなかったけどな。麺はスーパーの安売りで済ませようとした形跡があったぜ……空恐ろしいよお前」
それは重畳。にやりと口角を上げる。どうせ社畜どもに本物の味はわかるまい。スープをちゃんと作ってやっただけでも感謝してもらいたいものだ。
本人としてはそんな気持ちを込めた笑みだったが、その本人が培養液の上に浮いている生首なので、どう見てもSF風味のホラーだった。威嚇でしかなかった。
転生ものでいつも思うのですが、前世の記憶を持っているからといってそれは転生する前の人と同じと言えるのでしょうか。顔も違います。体は構成物質からして異なります。脳もきっと別物でしょう。
何をもって前の自分と今の自分を同一とみなすのでしょうか。