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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
散骨 弐
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散骨

 やっとこの章を終われます。次回から章が変わります。ありがとうございました。これからもどうぞごひいきに。

 どさ、どさっと音がした。背後で骨と灰の像が崩れ始めた。死体に魔法を使わせると激しく劣化する、まさにその通り。

 そもそも、ほとんど原形をとどめていないのを魔力にものを言わせて無理やり復元してやっと魔法が放てたのだ。きっと、もう二度と消具を見ることはない。これも死体ではなくただの燃えカスだ。

 どこまで復元されたのか見たい気持ちも当然あった。背後に出したから顔を見ていない。だがまだそっちは見ない。悪霊が消えてからだ。

 まずありえないがこれで消えていなかったら封印するしかない。イルマの焦りをよそに消具はあっさりと発動し、悪霊を消し去った。破壊された町と悪霊が宿っていたゾンビがそのままなところを見る。成功だ。

 存在したすべての事実を消してしまったらまた別の悪霊と今すぐ戦わされる羽目になる。

 ほっと息をつくと、杖がひとりでに手から離れた。からーんと大げさな音がして地面を転がる。どうしてかな?と両手を見ると、青紫色の風船のように膨らんでいる。

 手袋は破けて、腕輪で固定している部分だけが残っていた。おそらく膨大な魔力の負荷に耐えられなかったのだろう。後ろの死体は張りぼてのようなもので体重を支えるような耐久性はない。

 仕方なく、できるだけ安全に尻もちをつくために受け身を取るが、尻に地面を感じることはなかった。

「先生、大丈夫です?」

 代わりに温かい感触があって、優しく抱き留められる。そういえば居たな、と思った。そういえば助手がいたっけな。それから、そっと平らながれきの上に座らせられる。

「おおむね大丈夫だよ……ありがと」

 横目で見上げた先で、無理やり組んだゾンビが崩れていく。

 師の口の端がわずか持ち上がったような気がしたのはきっと気のせいだ。もう師じゃない。崩れる瞬間の最後の幻。もう二度と、こんな幻は見るまい。もうこの世に師の死体はないのだから。

 終わった。何もかも――そう思った瞬間に痛覚が復活した

「あいてててててっ!?」

 腫れ上がった手を叩きつけてくる雨粒からかばいながら悶絶する。思った以上に痛い。死ぬほど痛い。頭上からあきれ返ったユングの声が降ってくる。

「さっき大丈夫って言ったじゃないですか」

「大丈夫だけど大丈夫じゃないのー!痛いに決まってんじゃんこんなの!両手の骨が粉砕だよ!?ふざっけんなこのポンコツ杖!多少和らげるとかできねーのかよっ!」

 杖に凄んでみる。杖は「うるせえよクソメスガキ」とも言わないが、「申し訳ございませんご主人様」とも言わなかった。体が冷える前にどうにかしなくてはならない。ひとまず結界を張って雨をしのぐ。

「……っふー、落ち着いた」

「今度はほんとですね?」

 あーうんほんとほんと。実際落ち着いていた。

 まずは口で詠唱し、フロストとフロイトのコンビを呼び出す。イルマの両手を見るなりフロストは目をそむけ、フロイトはちょっと目を輝かせた。再生し甲斐があるのだろう。こいつはきっと今のネットにいたらリョナラーと呼ばれる人種だ。

「とりあえず一回それ切っちゃうね。あと……脚は後にしようか。出血がひどそうだ」

 うきうきとイルマの両手首をどこからともなく取り出したナイフのようなもので切り落とす。血があふれるより先に新しい両手がそこにあった。具現の発動と同時に古い方を切り取ったのだろう。ぐーぱーしてみる。

「どう、変なところない?」

「いや別に。ひきつる感じもないし、動きも悪くない。前と全く同じ。でもさあ……腕と色違うんだけど、これ」

「そりゃあこっちは日に焼けたことないからね。いいよ、サービスだ。日焼けさせといてあげる」

 見た目の方はサービスらしかった。ハイ次脚、と促されて上着の裾をめくる。こちらはボロキレ状態だ。ユングがひいいいいと変な声を上げてフロストと抱き合っているのが見えた。フロスト受けは譲れない。

「じゃあいらない部分は切り取っちゃうねー」

 神経の通っている肉片をじょきじょきと切られているイルマは少し眉を動かしたが何も言わなかった。痛くても言うだけ無駄だ。耐えていると、すらりと真新しい脚が生えてきた。

「微調整は後でやるから、とりあえずこれで歩いてみて。……あ、フロスト、畳か何か出して。ここだと歩くだけで大変なことになっちゃう」

「お、おう」

 弟の方は真っ青だった。畳も真っ青だったと念のため言っておこう。もったいないと思いつつブーツと靴下を脱いで上がる。歩いてみた。何だかバランスが悪い。筋力を調整してもらう。

「ありがとうね。ついでに、フロストさん、靴よろしく」

「靴?手袋はいいのか?」

 むーん。一瞬悩んだが、手袋は構わなかった。どうせそろそろ買い替え時だったのだ。

「手袋はいいや。買い換えたかったし。でも靴とこのガワの鎧は」

 こん、とさっき脱いだブーツとそれについた鎧を叩いた。膝から突き出た金属板が揺れる。

「こう見えて特別製だからさ、また作るとなるとすごくお金かかるんだよね」

 ユングの目がきらーんと光った。武器に反応したらしい。こうなるんだよ、と参考までに履いた時内側に来る部分を小突いてやる。

 鎧のぽこんと出っ張った部分の脇のスリットから地面と平行にしょきんと音を立てて小さな刃が飛び出し、戻る。

「……どうして今回使わなかったのか、理由を聞いても?」

「相手の能力的に近寄ったらジリ貧だったろ。当たらないと意味がないからね。あとブーツ本体も底に特殊な加工があって、……何メモ取ってるのさ。企業秘密なんだけど」

 ユングが光の速さでメモを破り捨てそのうえ燃やした。よしよし、ぐっどぼーい。ぴぽーんと何かがイルマの中で閃いた。

「お手」

 出した手にぽふっと革の感触が落ちてきた。温かい。あと大型犬の肉球と似ている。ユングは笑うでなくふざけるでなくごく当たり前の顔をしてごく当たり前のように『お手』をしている。

「……君にはプライドってものがないのかい」

「ええ、僕は自尊心をかけらも持ち合わせない服を着た豚、いいえ豚以下の存在です。……はっ、豚が人間様の言葉を喋ってはいけませんでしたっけ?ぶうぶう!」

 なかった。ユングは鳴いた。イルマは泣きたい気分だった。空が代わりに涙を流してくれているような気がした。ただの感傷だがそう思いたい気分だった。ここ変態しかいない。

Q:今回でししょーが退場しましたが、いかがですか?

エメト家のひとA:ええ、お気の毒です。しかし、当然ですわ。

エメト家のひとB:そう、奴は我ら一族の中でも最弱……。

エメト家のひとC:どっちかっていうと王族に近いから僕らの『とても丈夫』『度を越した剛力』っていう長所がないんだよね。残念だけど当然てやつ?

エメト家のひとD:私は奴がふさわしくないと前々から言っていただろう?

エメト家のひとE:そう、エメト家は人間界にて最強……。

エメト家のひとA~D:そんなことはない(です・ね)。

 おわれ

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