明日はきっと来ない 2
うまい題名が思いつかなかったわけではありません。単ニ続キナダケヨ。
イルマの肩当の中から黒い何かが飛び出したのだ。
つい目で追ってしまう。何だ、これは?イルマ本体と同じ魔力を感じるが、人形といった雰囲気でもない。もっと生々しくて、もっと柔らかい何か。ひとつ、ふたつと順繰りに左右の肩当から出てくる。
全部で十羽。見慣れた鳥だ。コルヌタでは四月から五月に渡ってきて子育てをする小鳥である。すばしっこい。
「……ツバメ?」
「うん。かわいいでしょ?」
ツバメだった。V字の尾を引いて、主の周囲を飛び回る。だがおかしい。どうしてツバメからイルマの魔力が感じられるのだろう。それに、どうしてこんなに見ているのに、ステータスが表示されない?
名前・イルマ
レベル・23
魔力・198/387
体力・18/21
攻撃力・17
防御力・39
装備・魔導師な服(後衛)、鎧、および封珠の杖
どんなに見ても、うるさいくらいイルマのステータスが出るばかりだ。ずいぶん魔力が消耗していることが分かってホッとする。しかしツバメは見えない。角度の問題だろうか。ずらしてみる。
名前・ユング
レベル・20
魔力・248/250
体力・64/67
攻撃力・21
防御力・38
装備・魔導師な服(前衛)、鎧、および古びたメイス
お前じゃない。違う、見たいのはツバメなんだ。いや、どうしてこんなにツバメが見たいんだ?よく考えたらわからない。でも見ないといけない、ような気がする。
(あ、そうそう。言い忘れましたがね)
久々に脳内に声が響いた。おかしくてたまらないと言いたげな笑みを含んだ声だったが、大きく動揺しているラナはそのことにも気づかない。
(死体は自ら憑依しないとステータスが測れませんのでご注意ください)
死体。死体だ!そのあとも確か魔神はゲームバランスがどうとか属性の相性がどうとか御託を並べていたが、もう聞いていなかった。
死体なのだ、あの鳥たちは。命を奪われ、その体を魔力で操られているのだ。
「死体を、弄んだの」
「うん。それが?」イルマは楽しそうに微笑んだ。先ほどまでの嘲笑とは打って変わって無邪気な笑みだった。「あいにくとこれが仕事でね」
なんてことを。ラナは激怒した。ここまで町を破壊しといて何を、という理屈は彼女の中になかった。
「この……外道がッ!」
「先刻承知さ!はい鳥ビーム!」
右目の視界の外側からいくつもの火の玉がラナを焼く。熱と光を伴う激痛で右の視界が大きく欠けた。焼けたのだ。ひりひりと痛む。
ツバメだ。いつの間にか視界から消えていたことになぜ気づけなかったかと自分を責める。
魔力を消費したらしいツバメは鎧の内側に戻った。あまり連射には向かないらしい。そんなこともできたのか。汎用性が高すぎるぞ、死霊術。
ちなみにこのツバメはイルマ自身の魔力で動くようになっている。先ほど放ったものとは別だ。さっきのは別の目的に使われる。年によるがたいてい駅前で捕まえている。
この期に及んでラナは時を止めた。走ってイルマの方へ近づく。焼けた顔の右半分が痛い。右の視界が欠けたせいかよろめいて転ぶ。
どうしてこんな目に合わなければならないのだ。すぐ乗り移るよりは手足の一本でももいでやろう。もいだ瞬間に時間を動かすのだ。苦痛と恐怖で顔をゆがませて見せろ。
スリットのある方、むっちりとした右の太ももへ、最初に躱された銃の魔法を放つ。魔力を消耗してしまったせいか、少し球が小さかった。
ぶちゃっと気泡の入ったケチャップが飛び出すような音がして、イルマの脚が爆ぜた。ぐちゃぐちゃの傷口から鮮血があふれ、そして時は動き出す。
しかしイルマはバランスを崩して倒れなかった。
ツバメかわいいですよね。