超速の観測者
本編でやんす。
斬撃は、今度も見えなかった。痛みを感じ振り向いた時にはもう何も見えなかった。何かはわからないまでも、とにかく対物理結界を、
「おせーよハゲ」
張ろうとした左手首が腕から離れて、血が放物線を描いて地面に落ちる。それからやっと物理結界が機能した。遅すぎる。しかも集中が切れたからかもろく砕け散った。
でもそれより、手を再生しなくちゃ。回復魔法を発動する。世間一般として、回復魔法で欠損した体のパーツを丸ごと再生するのはコストが高すぎるために行われないが、ラナはそんなことは知らない。魔力も潤沢だったため元通り手が生える。
そうしている間も、敵の影を探し続ける。魔力の雰囲気はイルマによく似ているから、使い魔か何かだろう。そこまではわかるが、視界にとらえないことにはステータスが見えない。
「へえ魔法で生えるのか……化けもんだな。だが関係ねえ。俺はただ斬って斬って斬るだけだ!」
声もあちこちから聞こえる。高速で移動し続けているのだということに気付いた時にはまた切創が増えていた。早く、早くどうにかしなくては。魔法は何かあったか。全方位とか、そういうの。
ないことはないが、この体では使えない。別のボディでないと。そう、せめて魔導師の。さっさとイルマの体をものにしなかったことが悔やまれる。
「だったら普通の魔法を全方位に放ってやるまでよッ!」
予想した手ごたえはいつまでもやってこないで、代わりにあちこちが切り裂かれる。そして、まだ相手の姿さえ見えない。
「遅え遅え……てめえの言う全方位ってのはあれかい?時間差はありなのかよ?そいつぁただの下手な鉄砲って言うんだよ!」
時間差。時間。ふとそのキーワードが点滅する。そうだ、時を止めてしまえば時間差は消える。罠かもしれないなんて人を疑うような思考は彼女にはなかった。
名前・セキショウ
レベル・99
魔力・0/0
体力・42/42
攻撃力・32
防御力・43
装備・服、見えない剣
止めた時の中で、敵が背の低い男だったことを知る。いくら普通にしていて速くても時を止めてしまえば何ということもない。消し飛べ。
しかし、人間がミンチになる魔法を食らって、死者は倒れもしなかった。焦げたり抉れたりの風景の中でぽつんと立ち姿が残っている。ラナは知らなかったが、現代の死霊術では仮人体の強度が本物の人体に勝るのだ。
まして今のセキショウはイルマに強化の術式を組み込まれていた。そう簡単には壊れない。簡単には壊れないが、決して壊れないわけではなかった。
背の低い剣士はやがてますます小さくなって、地面に散らばる。それでも手足の原型が残るが、その前に時間切れだ。
ずいぶん時間がかかってしまった。310秒。何となく嫌な感じがしたが、それ以上気に留めることはなかった。
ラナがもう少し世間の人間が生きるために起こす悪知恵に詳しければ、その意味が分かっただろう。
イルマは、呼び出した死者の壊され具合を見て、悪霊が止めていられる時間を計ったのだ。
「五分十秒ってとこか」
やっぱり外道じゃないか!(歓喜)