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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
散骨 弐
231/398

はじめての共同戦線

 恒例の「はじめて」シリーズがやってまいりました!とか言ってみたいところですが、そういう話でもなかったような気がしています。

 恒例にはなれなくても、放っておけば高齢にはなれるありんこです。皆そうか。

――消具。

 コルヌタ語を使えば詠唱には三分もかかるが、距離は考えなくてよさそうだし、魔力は出る。ただ対象を考えると成功するかもわからない。いや、おそらく発動しない。

 だが、おそらくおびき出せる。発動すれば万々歳、発動しなくても大成功だ。

 洞窟でイルマが使った黒の呪いと同じである。発動の有無は関係ない。

「孤城の残りて、日は落つ……」

 できるだけ力を抜いて、一つ一つ確かめるように詠唱を始めた。

「う!?」

 たばこの臭いが染みついたパチンコ屋の前で、体に刺さった鏢を抜き取っていたラナは手を止めた。これは魔力だ。間違いない。誰かが魔法を使っている。

 間違いないが、おかしい。憎いあの女からも、こんな感じはしなかった。これまで屠った魔術師たちもこんな魔法は使わなかった。魔力に悪意や害意、敵意が混じって嫌な感じがしたことはあるが、それでも違う。

 全身の毛穴から虫が這いだすような強烈な『不快感』は違う。

「誰っ」

 頭を巡らせるのと一緒に、ぐるりと空が回る。新手かとも思ったが、見当たらない。魔力は建物の向こう、広場の方向から感じられる。ああ、何か忘れているような気はしたんだ。

 思い出せ。あそこには、誰がいた?

「あの、メガネ……ッ!」

 思い至ったとき、不快感とともに嫌な予感までが首をもたげていた。もちろん、ラナは消具のことなど知らない。だが、魔神の子として悪霊の本能は天敵に対した己に最大の警告を発していた。

 しかし、そんなことはやはり彼女にはどうでもよかった。

「私は……私がこれだけ必死にやってるってのに!私は一人なのに二人がかりで……よくも……邪魔しやがって!」

 怒髪天を衝く。その言葉の意味を今理解したような気がした。迂回路をとるのもうっとうしい。正面の建物を爆破して広場へ向かう。

 途中で友達の家を踏み潰した。あんなに仲が良かったのに、難関高の入試が満点だったって喜んでいたのに、たぶん今ので死んでいる。これもきっとあいつのせいだ、あいつらが悪いんだ。

 あいつらさえ、こなければ。

「いた……」

 何か詠唱しているのを見つけた。目を閉じ、手指を組んでいる。完全に無防備だ。集中か、余裕か。眼を細く開けて、ちらりとラナを見て、また目を閉じた。なめやがって。怒りがゆっくりと飽和する。

「昔から、魔女は火あぶりよね。それが男でもさ」大火力の炎の魔法を構築する。投げつけた。「だからあんたも……灰になりなよ」

 目はそらした。さすがに人間が燃えるところなんて見たくはない。じゅっ、と物の焼ける音がやんだ頃に視線を戻した。きっと黒焦げの骸骨が崩れているはずだ。

 しかし、そこにあるのは焦げた地面ときな臭い空気だけだった。

 いない。避けたというのか?どこへ?あんなに無防備だったのに?こっちを見もせずに?そんなはずはない。ありえない。ありうるのは別の可能性だ。

「誘蛾灯役、ご苦労」可能性がメガネの男をひょいと担いで笑う。手には、長い……あれは鞭か?「何の魔法だか知らないけど実にいい手際だったよ。でもさあ、回避くらいは自分でやってほしかったな」

 体力の無駄遣いだよ。でかいし重いんだよ君。毒づいてイルマはユングを屋根に降ろした。自分に付加系の魔法をかけてから鞭で引っ掛けて一本釣りよろしく引き上げたのだ。

「そんなに器用じゃあないんですよう。特化型なんです……やだ、ここ高いじゃないですかッ!?」

「ああ、三階建て民家の屋根だからね。でも言うほどじゃないだろ」

 縮こまってしまった助手の背中を虚無的に眺めながら言った。年上はきっとこいつの方だったような気もするが、むしろ自分より2つか3つ年下のように思えてくる。

「嫌です無理です端っこじゃないですか無理ですヒュンってなりますヒュンって体感温度も当社比三割下がります」

 そんなにまくし立ててどこで息を吸っているのかとか、以前にもっと高い電波塔から飛び降りてただろとか、思ったけど言わなかった。

「それはむしろ羨ましいよ。今日は暑いからねぇ」

 からからと笑うのが神経に障る。挑発と呼ぶにはあまりにも安っぽかったが、こんなものでも今のラナは乗らないわけにはいかないのだった。きっと睨みつける。イルマの口元が艶めく笑みの形にゆがんだ。

 そうだ、もっと怒れ。分別も理性もなくして、ただの強い獣に成り果てろ。

 悪霊は煽ってくスタイルで。

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