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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
散骨 弐
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覚醒はピンチの後で

 どっちが悪役かわからないこの勝負、もうしばらく続きます。おそらくどっちも善か悪かで言えば悪に変わりはないです。

「セキショウさん」

 結論が出るより前に自分より背の低い剣士を喚ぶ。反応が悪いが頑張って呼びかける。

 前日の作戦会議の際に猪武者で何の参考にもならないと断じたことは忘却の彼方だ。めちゃくちゃ参考になる。もうほかにいない。

「そこまで言ってくれるなら働き甲斐もあるってもんだぜ。さすがに俺だって何でもかんでも『オッケーだぜ。何も問題ないぜ。奴が出たらただ斬るんだぜ』で通るとは思ってねーし」

「うん、ごめんね。ほんとごめん」

 セキショウは出てきてくれた。辮髪をゆらゆらさせながら頷いている。ありがたいことこの上ない。何て優しい死者なんだ。

「いいや、俺は別に優しくはないぜ。それこそいーちゃんでなかったら速攻で契約切ってるとこだからよ」

「え、そうなの」

 日ごろからだいぶ死者に愛されているとは感じていたがそこまで差があるものなのか。イルマは自分と他の死霊術師の差異がものすごく気になったが、今はそれどころではないので流すことにした。

「ちょっとしてほしいことがあるんだけど」

「いや、言わなくてもわかってるぜ。オッケーだぜ。何も問題ないぜ。奴が出たらただ斬るんだぜ」

 何も言えなかった。そう言うと思ったしそうしてほしいのだが、少しだけ複雑な気持ちになる。

 本当に大丈夫かなあ。いや通常運転ではあるんだけど、このひとさっき自分で言ったこと覚えてないんじゃないか?一抹の不安が頭をよぎった。

 しかし、これに賭けるしかあるまい。腹を据えて鞭をしごく。

「うん、あいつが出たらただ斬って。後のことは、私が考える」

「おうさ」

 どこにいるかはわからないが、イルマに何やら敵愾心を持っているらしいことは明らかだ。そのうち追って来るだろう。そのうちが、いつかはわからないが。

 おそらくこちらがじれるまで動かない。イルマならそうする。喚び出した死者は術師の魔力の残り香のようなものをまとうから悪霊からすれば一目瞭然だろう。陽動には適さない。

 だとしたら……しまった。探す方法がないではないか。嫌がらせ爆弾は嫌がらせが主目的であって追跡用ではない。臭いは取れていないだろうが、警察犬ならぬわが身、追跡は不可能だろう。

「しまったな……もう一人連れてくるべきだった」

 そうすればそちらからおびき出せもしただろうに、と宙を睨む。自分のぼっち加減が恨めしい。たそがれていると、つんつんとセキショウの指が肩を叩いた。

「……なあいーちゃん、忘れてねーか?」

「何を?」

「ほら……あいつ。ユングだよ」

 イルマは何も言わなかった。


 そのころユングは彼なりに頑張って行動していた。目の前から突然悪霊が消えたのである。誰だってテンパる。

 しばし、闘争の悦びで理性が飛んでいた影響もあって「せんせー?せんせーどこ!?どこいっちゃったのっ!?」と迷子の子犬のように途方に暮れていたが、やがて自分が子犬ではないことを思い出した。それから、現在の状況を再確認して、改めて悪霊を探し始めた。

 イルマのことはひとまず後だ。抜け目ない彼女のこと、見事に隠れているだろうからきっと悪霊を探したほうが早いだろう。

 イルマには『甘やかされている』と形容されたが、彼も祖父母と同様に魔界の戦乱の中に身を置いてきたことに変わりはない。だから、悪霊のこともよく見ていた。

 まず、あの見た目通りの子供だ。幼い。魔法の知識はほとんどないか、あっても一般的。おそらく人間だったころには魔法を使ったことはない。遠距離からの攻撃はないものと思ってよさそうだ。それにあの動き、体術もかじってすらないはずだ。

 莫大な魔力とチート能力さえなければ恐るるに足りない。

 足りないのだが、その二つが何より問題ではないか。困ったなー、と明後日の方向を眺める。今日は考える余裕があった。

 闘争の悦びは変わらず臓物を焦がして脳に快楽をまき散らしているが、いつもと違う。焼けつくような脳の、少し離れた涼しいところで思考が回っている。

 体も軽いが、苦痛も何も感じないのとは違う。痛みは感じないが、はっきりとした『損害』の感覚がある。ハイになっていない。落ち着いている。

 危機に際して体が対応しようと必死になった結果である。判断力・思考力の低下が補われたのだ。原因がひどいが一種の覚醒でもあろうか。

「先生ならどうするかな……」

 そもそもイルマならこんな状況にはならない、という何の参考にもならない結果が出てきた。軽く舌打ちして考える。

 だからといってここでじっとしているわけにもいかないだろう。仕事を任されたんだ、何とかしなくちゃ。

 もっとこう、簡潔に書けたらいいのになあ。

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