女狐と泥棒猫
文字数が多いために話の間が空いてしまって申し訳ないのですが、拙くも伏線を回収しています。知るか!そんな前のことは覚えてねえ!という方は、もしよろしければ読み直してみてください。
もちろん、覚えていなくても楽しめますので、ご安心ください。
能力以外にもまだ気になることはある。悪霊になることに関しては年齢は関係ないそうだから幼すぎるとかそういうことは特に考えていない。
そうではなくて、目つきだ。あれはもともと目つきが悪いんだろうか。それともやっぱり私のこと睨んでる?
睨まれているとしたらまあ嫌がらせ爆弾とか嫌がらせ爆弾とか思い当たる節はあるものの、それだけにしてはどうもすっきりしないのだ。子供らしい無邪気な怒りというものを感じないというか、粘着質の何かを感じるというか。
初対面の相手だがいっそ過去に因縁でもあってくれたらわかりやすいくらいである。そうだ、それだと期待してみたが、どうも見当たらなかった。
攻めてきた相手を見るにしては、ステータスなるものが見えているとしてもユングとイルマで見る頻度が違いすぎる。では、人に聞いたりなんだりで向こうが一方的に知っているのか?
世間は広いようで狭い。世の中にはイルマもしくは師に何らかのトラウマを持っている人だって『少しは』いるに違いない。だとしたら警戒には頷ける。
でもなあ、と指をこすり合わせた。仕込み武器を使うときの予備動作のひとつだ。当然これ一つ見切られたところで別のがあるから困らない。
わざわざ顔の前に持ってきて、見抜けと言わんばかりだ。しかし、少女は相変わらずこっちを睨んでいるが反応はしていない。うん?警戒ってわけでもないのかな?ますます訳が分からないよ。
次何したらいいです、と指示待ち人間のオーラが語るが無視した。こっちが合わせるって言ってんじゃん自分で考えやがれ。
何か忘れてるような気もしないし、何度見直しても記憶には何も蘇ってこない。うーん、とフクロウのようにぐるりと大きく首をひねり、イルマはお嬢様を思わせる顔と口調を作った。
「ユング、しばらく頼むわっ」
そして煙幕を撒き、脇目も振らずだーっと走り出す。後ろで「えっ」が二つ聞こえた。
助手よ、おい。驚いてるんじゃない。お前はよくないほうの戦闘狂キャラか。何冷静かましてやがる。あと悪霊。お前も驚くのかよ。素人かよ。いや、素人だったな。ごめん。私が無茶振りしたんだね。
「逃げるなッ!」
黒いマントの背を見て我に返った。時を止める。ぽかんとしたまま固まっているメガネを一発殴り、風の魔法で煙幕を振り払う。
どっちだ。どっちへ行った。あいつは肩にでかい鎧をつけている。その気になれば投げ捨てられる杖はともかくあれは簡単に外せない。とすれば路地には入れまい。じゃあ、こっちの道だ。
ほら、いた。悠長に手の甲を撫でている。まだまだ止めていられる時間はあるが、あえて能力を止めた。動き出すときの中で、動かない絶望を味わえ。
使っているのが人間の体である以上、煙幕は見通しがきかないだろうし、人間離れした動きもできまい。そう簡単には追いつけないだろう。杖をカバンに押し込んだ。
さて、問題はここからだぞ。気を引き締めろ、私。頬をぴしゃりと張る。思った通りならここから――ユングの手が借りられない。籠手に並んだ筒のようなもの、巻き取ってあるワイヤーをなぞる。巻きには緩すぎるところもキツすぎるところもない。万全だ。
さて、脚は……。
「おいでなすったか……」
こちらは確認できなかった。目の前に肩を怒らせて、悪霊が立ちはだかる。というか、急に現れた。例によって何をしたのかはわからなかったが、ともかく煙幕の意味はなかったわけだ。
あーあもったいない。あれでけっこう値が張るのに、とマントの裏に両手を軽く広げて立つ。この構えの意味するところを知らない相手はいっそ愚直にこちらへ歩み寄ってくる。ポーカーフェイスというわけでもないのだが、柔和に微笑んだ。
さて、この武器はどこからステータスとして表示されるのかな?
リアルはともかく、話の中では三か月もたたないのに、イルマの記憶力ェ……。