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ゲーム脳の弊害について

 お久しぶりです。皆さんゲームは好きですか?私は最近になってやってみたのですが、割と奥が深いものですね。そういうわけで結構好きですよ。

 とくに、あれですね。ステータス。みんなレベルがあって、レベルを上げるとステータスも上がっていく。体力、攻撃力、防御力、みたいな。敵と味方の力量差もわかりやすいし、ゲームの仮想の世界が全部数値で管理されているというものはどこか気分のいいものですよね。

 では、それを現実に持ってきてしまったら……どうなるでしょう?

 少し離れたところにパラシュートが降りたのが見えた。あっちか。必ずこっちへ向かってくるだろうから、広場の近くの家だったものに隠れて待ち構える。

 時間にして五分ほどたったころ、魔導師が到着した。あっと声を上げそうになったが、こらえて、ステータスをじっと眺める。この能力、彼女は心から信頼している。

「もう二度とパラシュートはやりません。自殺でも飛び降りだけは勘弁です」

 げっそりと男が言った。若い。青年か少年かよくわからないが、少なくとも大人ではない。見覚えのあるメガネだ。黒縁、分厚いレンズ。

「何言ってるんだい。君に仕事が選べるもんか。それに死にざまなんて自分で決められる方が少数さ」

 少し横柄に応じるのは間違いなく少女と呼べる年齢の女だ。魔導師には幼すぎる。それでもラナよりは年上だし、発育もよい。胸とか、尻とか。

 蘇生されたときに一度見たっきりだが、あの時よりさらに艶っぽくなっているように見える。風をはらむ栗色の髪に、淡い緑の大きな瞳。黄みを帯びた肌の弾力。

 彫の深い顔のパーツ一つ一つは平凡ながら小気味よく配置され、血色の良い頬と唇はふっくらと張り出している。時々見える歯にしたって白く、歯並びもよい。

 本人はあまり自覚していないようだが、間違いなく美少女の部類に入るだろうし、長じては美女と呼ばれることだろう。

 帝都の死霊術師、イルマだ。師にちなんで病み魔法使いの弟子とも呼ばれると聞いた。もう一人はえっと……腰ぎんちゃく?そういえば名前を知らない。

 しかし驚いたことには、二人とも、前に会った時とほとんど同じ服装をしている。長い上着にマントだ。あの時が何か重大ごとがあってあの格好なのでなければいつもと同じ服装ということになる。悪霊は一応人類の脅威だったと思うから不思議だ。

 腰ぎんちゃくは上着は膝の上までで、太ももと、おそらくは両肩に何かの動物の革が細く切られて鋲で打たれている。

 イルマの上着はそれに対してずいぶん長い。左側にはスリットが腰の上まで入っているが、丈はくるぶしを隠していた。あまり動きやすそうには見えない。

 肩当てが一番大きな差異だ。腰ぎんちゃく――ユングはワイヤーを組み合わせたような、比較的単純な小さめの肩当てをつけている。

 それに対してイルマには巨大な防具がついていた。鳥のくちばしのような形で、これを付けたために肩幅が倍以上になっている。革のような感じはあまりない。金属製だろうか、それとも魔物の骨だろうか?どちらにしろ恐ろしく重たいはずだ。

 あと、彼女は手袋とインナーの上からいくつも並ぶ筒状の構造物のある革の籠手と、同じようにブーツの上から前方だけの同じく革のすね当てをつけていたが、その下はやはり防御を固めているとはいいがたい。

 ブーツはともかく、ショートパンツとサイハイソックスの間は太ももが見えている。ソックスだって何か丈夫な素材だとか、そういう風には見えない。ただの80デニールくらいの靴下である。防御力ゼロ。

 一応、そこを隠すようにすね当ての膝から上へ長く金属板が突き出てはいたが、膝をついたら防御の意味がゼロになる。

 なめてんのか。

「結局海は伸びましたねえ。もうそろそろ、いらが出て海に入れなくなっちゃいますよう」

名前・ユング

   レベル・20

   魔力・250/250

   体力・65/67

   攻撃力・21

   防御力・38

   装備・魔導師な服(前衛)、鎧、および古びたメイス

 何だかいきなり疲れている感じなのはパラシュートだろう。どうせゴミだしあまり気にしなかった。

「いらって何だい?ひょっとしてイカの間違い?」

名前・イルマ

   レベル・23

   魔力・387/387

   体力・21/21

   攻撃力・17

   防御力・39

   装備・魔導師な服(後衛)、鎧、および封珠の杖

 ふっゴミめ、とラナは一人勝ち誇った。

 イルマはレベルでは隣の山田さんを超えるが、体力では彼を下回るし、どっちにしろラナよりレベルが低い。大したことないな――そう笑う彼女はもちろん、ゲームにはまるで詳しくなかった。

「無色で半透明で、瓜のような形をしていて、僕の手に乗るくらいで、触手があって、触ると痛いです」

「ああ、共通語で言うところのクラゲだね」

 彼女は知らなかった。

 レベルが同じでも、キャラクターのレアリティによってステータスが変動することを。また、ゲームによってはレベルが上がる速度がレアリティが上がるほど遅くなっていくことを。一般に、レアリティの高いキャラクターのほうがステータスが高いことを。武器や防具は装備しないと意味がないことを。

 彼女は忘れていた。

 相手がゲームのキャラクターなどではなく血の通った生き物であることを。そして、現実世界はゲームの文法を当てはめるにはあまりに複雑すぎるということを。

 あるいは、これらも最初から知らなかったのかもしれない。


 さて、もううすうす感づいていることとも思うが、まずイルマの服装である。こんな格好で武器を仕込んでいないはずがない。実際、いたるところにギミックが隠されていた。細かな描写は後に回すが、とにかくいろいろあった。

 では、なぜこれらが装備として計上されなかったのか?

 身にまとう『服』ではなく、『武器』にも関わらず手に持っていなかったためだ。カバンの中の道具が表示されないのと同じである。

 なるほど、イルマは全身に仕込んだ武器には手を触れていなかった。というか、手で触れる必要のないものがほとんどだった。

 魔神はさすがというべきか、惜しくもというべきか、詰めが甘かった。

 今回の前書きは世にも奇妙な雰囲気にしてみました。みたつもりなのですが、どうも説教臭くなっていけませんね。長いし。

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