ファーストインパクト!
だいたい題名の通りです。遭遇します。さあ二人の宿縁に決着はつくのかっ。
「何ですか、それ?」
イルマが手に持っているものを見たユングがいぶかしげに聞いてきた。何だろね、と笑う。みやびな育ちの人には確かにわからないかもしれない。だがこれは、役に立つもので、手作りの品で、自然の材料で作られたものだ。
「ひょっとして戦法とかあります?」
「なーいよ。君は君で、自分の思うように、好き放題暴れててくれたまえ。私が合わせるからさ」
「連携をあきらめましたね、今」
否定も肯定もせず、ヘリからちょっと顔を出して借りた双眼鏡で下を見る。目が眩むほどの高所のはずだが、毎年電波塔に上ったりしているから恐怖はさほど感じない。高所無恐怖症ってやつだろうか。それはそれで病気だぞ。
町は半分がれきだ。復興の前に更地にせねばなるまい。被害状況が明らかになったら、ここで何かの魔法の実験でもしてみたいものだ。
「よく覗きますねえ」後ろからユングがあきれるのが聞こえる。「僕なんかもう、横を見るだけでヒュンってなりますよ、ヒュンって」
「あっそう」
そのヒュンってなる高さからパラシュートだけつけてダイブさせられるのだが、言わないことにした。
「うーん、あれかなあ」
廃墟と化した町の広場のあたりにぽつんと少女が立っていた。
この暑いのに長袖長ズボン。金茶の髪。見覚えがあるようなないような気がするのは、ここに来るまでに見せられたあのボケボケの写真のせいだろうか。特徴は一致する。
悪霊ならぬ人間の身、イルマの目には魔力量も何も見えてはいないが、何となく『嫌な感じ』を覚える。双眼鏡を左に、手作りのアレを右手に持ち替える。
「人違いだったら自分の間の悪さでも恨むんだね。さすがに普通の子がこんなとこに立ってるはずはないだろうけどさ……」
狙いすまして、投げた。投げる動作は誰も見ていなかった。見ていたとしても、ゴミを外に捨てているようにしか見えなかっただろう。下に誰かいたら危ないだろうがそもそもポイ捨てをするなと叱られるのが関の山だ。
しかし十分な初速をつけて空中へ放り出されたそれは、まっすぐ下に落ちてゆき、9,8メートル毎秒の加速度を得、少女に肉薄する。
「おっ」
少女が『何か』した。何をしたのかはわからないが、とにかく投げたものが空中分解した。しかしこれでは終わらない。
様々な色の光芒とともに破裂音、さらには湿った何かが降り注ぐ。ここまで聞こえない悲鳴。それを見ながらイルマ――人類史上初めて、封じられていない悪霊に先制攻撃を食らわせた女はしみじみとつぶやいた。
「わざわざ防御してくれるなんて……親切だねえ」
何事もなかった顔をして、少し離れたところに降ろしてくれるようパイロットに頼んだ。
「うぎゃあああああくっせええええええ!!」
先制攻撃を決められた悪霊・ラナは自らが壊滅させた町の広場でのたうち回っていた。
ヘリから球形の何かが落ちてきたので、とっさに手榴弾だと思い、時間停止の能力で空中にあるうちに破壊したのである。そこまではよかった。
なぜ手榴弾の外側が書道の半紙に酷似しているのかちょっとだけ引っかかったが無視した。それがいけなかった。
実際、外側は半紙である。書き損じの物だ。その一枚内側に、光芒や音を発するような呪文を書き込まれた呪符がびっしり貼ってあった。そして、これらが包んでいたのはというと、である。
路地裏に転がっていた猫の糞を米酢で溶いたものに20年近く放置された開封済みシュールストレミングだったもの、さらには腐ったトマトとヘクソカズラの蔓、果ては何か服に臭いと色が付きそうなものを大量に投入した、イルマ謹製嫌がらせ爆弾だったのだ。
持ち歩いている間に臭いが周囲に移らないよう結界で包んでいたこともあり、気づけなかった。
向かうところ敵なしの悪霊はあろうことか、このどろどろの液体を頭からかぶってしまったのである。強烈な臭気はもはや暴力、一瞬で瞼が鉛か何かになり涙と鼻水とよだれが滝のように溢れ出した。
「っがああああああああ!!ごろづ!ぶっごろぢてやるっ!!」
一人でばたばたと暴れると、落ち着きが帰ってきた。しくしく……もうお嫁にいけない……。よし、魔法で洗おう。いくらかましになるはずだ。
あれこれと試行錯誤をしてみたが、さすがというか何というか、人類初の快挙はなかなかしぶといのであった。つまりは臭いも色もそう簡単には落ちなかったのだ。
有機溶剤系とかいうのを試してみようか、と思ったが、言葉を知っているだけでどういうものなのかよくわからない。具現化で出せそうな気もしたが、今の体では具現の魔法は使えない。どこかで使える人の体を手に入れないと。
よし、もう気にしないことにしよう。決めた。
しかし悪霊に先制攻撃、それも防御が無効になるとは。来たのは一体どのような使い手だろう。悪霊の自分には敵ですらないとは思うが、素晴らしいようなら次の体用にとっておこう。
もちろん読者諸兄には周知のとおり先制攻撃は嫌がらせで、来たのはかつてラナを蘇生した魔導師なのだが、そんなことは知らなかった。まだ遠すぎてステータスが見えないのだ。
いや、話的に決着ついてくれないと困りますけどね。それにしてもタイトル的に悪霊が勝ってイルマの体を奪ってもそれはそれで話が書けそうなのですねー。
サイコとキレる子供どっちがいいです?