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誕生の時

 お久しぶりです。にもかかわらず慣れないバトルパートで書き溜めが底をつきそうです。つまり……更新が遅れる見通しです。申し訳ありません。

 時は一日ほどさかのぼる。

「ぱんぱかぱーん」どこからともなく男の声が響いた。「おめでとうございます、あなたが次の悪霊ですよ」

 ふざけたことを言っているが何を言っているのかはわかる。選ばれた理由くらいわかっていた。それでも足元の手を蹴って、相手の姿を探す。無駄ですよ、と再び声がした。

「私は封じられていますから、あなたの前に姿を現すことはできません。飛ばせるのは声だけなのです。直接脳内に話しかける無礼を、どうぞお許しくださいね」

 言われなくても。こちらこそ寝間着ですみません。選んでくれただけで十分だ。ところで自分はどんな悪霊なのだろうか?一番の関心ごとはそちらだ。

「あなたの能力は『時間停止』です。レベルに応じて時間を止めることができます。たとえば今はレベル1ですね?……なら、あなたが『止まった時の空間』にいられる時間は10秒間になります」

 魔神はゲームみたいなことを言った。早速試してみる。10秒、確かに時計の針が動かなかった。レベルに掛けること10、それが止められる時間であるようだ。なかなかの待遇である。

 しかし、五秒待たないと次が発動できないということもわかった。時間停止という恐るべき能力に対して、小さすぎるとすらいえる代償だ。確信した。魔神は、自分を負けさせるつもりなどない。誰にも。

 洋服に着替えて、さっそく町へ出てみよう。ラナは自分の部屋に向かおうとして、足の裏が滑るのに気付いた。何かしら?と思って足を見る。血だった。べっとりと付着している。

 スリッパを履いていればよかったのに……仕方ないか。シーツか何かで拭こう。鉄臭いのに気付かなかったのは、家の中のせいだろう。どこもかしこも、今はそうだから。

 月光を反射する手の爪に、白い線はない。あの死霊術師。彼女はあれもこれも、死後のことは忘れるように仕向けたようだが、あれでは足りない。

 数々の違和感から真相へたどり着くのは、そう難しいことではなかった。知らぬ間に立派になっている家。爪から消えた白い線。よみがえってから一度も起こさない立ちくらみ。何だか若返ったように見える母。

――だって、もっといい家に住みたいって、ラナも言ってたでしょ?

 問い詰めてみれば、彼女は当たり前のように言ったのだ。

――母親が働くと、子供が変な風に育っちゃうって何かで聞いたことあるの。ええ、きっとあの魔法使いも片親の子だわ。ママはラナがああなるのは嫌だから、働くわけにはいかないの。

 何の筋も論理も通っていない、めちゃくちゃな主張。何から突っ込めばいいのかとはまさにこのことだろう。

――お父さんに頑張ってもらおうかとも思ったけど、それはちょっとひどいと思わない?今も頑張ってくれてるのに。

 ヒ素を盛ったのはほかでもない母だった。なるほど、量を調整できるわけだ。盛ったのは毒だけではない。生命保険もだ。

――いいじゃない、生き返ったんだから。ヒ素だって、消えたんでしょ?今夜は一緒に寝ましょうね。久しぶりに、三人で。

 呆然と頭に霧がかかり、何も考えられなかった。だから、すべては偶然だ。

 二人が眠ったあと寝室を抜け出したこと。キッチンの戸棚から包丁を取り出していたこと。眠る両親ののど元に、それを突き立てたこと。すべて偶然だった。

 いや、必然かもしれない。悪霊として選ばれるための。それはそれで、すてきなことだろう。幸いなことに悪霊は人間より無理がきく。

 イルマを見つけ出して、記憶を食ってやろう。そうすればきっと、彼のこともよくわかる。残った体はどうしようか。乗り移って、自分の体にしようか。それもいい。あれでも魔導師だ。魔力だって並ではないだろう。

 あの体で、あの顔で、目の前に現れたら、彼はどんな顔をするだろうか?あの目がまっすぐこちらを見るだろうか?死体以下の情緒に訴えられるだろうか?

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