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眠れない闇に耳を澄ませて

 回想でありながら、ありんこ的安眠法です。まあ眠れないなら寝ずに別の事始めますがね、明日は遠足とかそういうときって寝ないといけないじゃないですか。

 夢を見た。

 師がいて、外は夜で、そこまでは前と同じだが、今度は部屋の中も暗いのだ。師は本を読んでいない。目を閉じて、イルマの隣で横になっている。低い室温の中で体温がじんわりと伝わってきた。

 外では車の音がする。いや、バイクかもしれない。とにかく、道をゴムが擦る音だ。エンジンの音だ。ビルがあるのは大きな道から一本入ったところとは言っても、いつでも聞こえる。電車の音も、十何分か開けて響いてくる。

 うるさいな、と思っていた。安眠妨害だ、公害だ。訴えてやるぞ。

「……まだ起きていたのか」

 口に出さなかったはずなのに、目を閉じたままで師が言った。暗い部屋の中で白い面がぼんやり浮かび上がる。寝言かな?そっと顔を近づけてみる。

 今度はぱかっと目が開いた。じろりとこちらに藤色が回ってくる。

「うわ、まだ起きてるの」

 身じろぎもせずにじっと目を閉じていたはずだ。普通途中で寝るだろう。眠っているはずだろう。夢の中なのにそう思った。いや、夢ではない。

「どうだっていいだろう。……寝ないと背が伸びんぞ」

 夢ではあるけど、これは過去の現実だ。実際にイルマは眠れなかったし師は眠ったような顔をしてずっと起きていた。どうして師の部屋にいたのかは……ごねにごねてベッドに入れてもらったような気がする。

 病院の空気を希釈したような、甘ったるいような臭いの変な湿り気。体温と臭いを消したら今と同じ環境だ。

 どうして眠れなかったのかよくわからないが、興奮でも人は寝付けないとどこかで聞いたから、寝つきが悪かったのはそのせいだろう。

「し、ししょーこそ、何でまだ起きてるのさ」

「眠っていないから起きている」

 真面目に答える気はなさそうだった。あーそーかい。

 ただ、今になって思えば、骨まで食い荒らす病のために眠るに眠れなかったのではないか。じっと動かずに目を閉じて、苦痛を外に見せないようにするので精いっぱいだったのではないか。

「どうした?そろそろ間抜け面に一筋ヨダレでも垂らして寝こけている頃合いだろう」

 ひどい言われようである。イルマが答える前に師は目を閉じた。寝た?いや、たぶん起きてる。やがて再び目が開いた。長めの瞬きだったらしい。

「……何か寝付けないんだよ」

「そうか」

 緩慢な寝返りを打って、師がこちらを向いた。

 挙動は倦怠感を匂わせるが、首から上は違う。眠気など感じない、妖しく光る双眸。手負いの獣のようだ。パジャマの胸元から斑点の浮いた白い肌がちらつく。

「目を閉じて……耳を澄ましてごらん」

 言われなくても耳を澄ませてしまうような、ささやくような小さな声だった。言いながら彼も目を閉じたので、慌てて目をつむる。

「聞こえるだろう、いろいろな音が」

 バイクの音に最初に気づいた。それより遠くから、救急車のサイレン。最近よく聞く。がらがらがら、と聞こえた。

「今、少し大きな車が通ったな。……近くに運送屋があるからそこのだろう」

「そうなの?」

 魔導師はただ、さて、とかすれた吐息をついた。彼にも確かなことはわからないのだ。ただそれよりも、イルマはこの場の心地よい空気にヒビを入れてしまったような気がして口をつぐむ。

 小さいときお母さんにこうやって教わったような気もするけど、お母さんに聞いたらそんなことしてないとのこと。お父さんに聞いたらそんな昔のこと覚えてないとのこと。

 だ、誰に教わったんだー!?

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