暫定・最後の飯テロ
晩餐より飯テロのほうがおいしそうに聞こえますね。応募(?)してみたあの何かの賞どうなったかな。見たら凹むだろうからSAN値に余裕があるときに見に行きたいと思っています。
「脂がのってておいしいですぅ。これ何て言うんですか?」
焼き上がり第一号をかっさらったユングがにこにこと言った。料理はできないくせに焼き肉の焼き加減は見えるようだ。うっぜー。
田んぼの方からはげこげこげこげことカエルの歌が聞こえてくる。伴奏は肉の焼ける音とパチパチ炭の弾ける音。パーティーのBGMとしては悪くない。
「テッチャン。つまり腸だね。マルチョウにするには大きすぎたみたいだよ」
「やだ何それおいしそう」
マルチョウとはテッチャンをひっくり返して脂肪を内側に閉じ込めたもののことだ。
焼き上がり第二号をかっさらわれた一号の代わりに口に入れる。イルマは軽く目を見張った。脂が甘い。精巣は大味という印象しかなかったが、こちらはいけるものだ。
『なるほどォ?こいつは掘られる側だったわけだなァ。こっちのが発達してやがらァ』
いつの間にかドラゴンの腸を食べているロランがまた下品なことを言って笑った。食事中にやめてよもう、と建前で言う。
ドラゴンのホモォ……某お絵かきサイトにはありそうだけどちょっと私には早いかな。ていうかそもそも、これは小腸なんじゃないかな。やおいには使用されない部分なんじゃないかな。
まいっか。ガンガン焼こう。
炭と肉とタレの香りを鼻腔に一杯吸い込んだ。乾いていれば買い置きの炭でもいい。あー、タレにいいゴマを使っている。香ばしいとはこういうことだ。これが幸せの匂い。これが幸せ。
肉の焼き加減をじっと見守る両頬と鼻先に熱を感じる。
「おいしいけど僕も年だね、もう少しあっさりなのがほしいよ」
少し寂しげにぼやくエメトにじゃあこれはどうかなと苦笑を浮かべてハツは網に浮かべて――気づいた。
四人いる。
「増えてる!?」
「え、減ったよ」
エメトにとっては減ってこの数であるらしかった。何が減ったのかわかるし共感できるが彼の方ではイルマに共感など外面でしか抱かないだろう。言わないでおこう。
『嬢ちゃん、酒出せや。何でもいいからよォ』
『やたよ!もったいないーよ!』
ただでさえロランには空気を読む機能が搭載されていないのに、今宵はいつにもましてひどかった。サイコ政治家との相乗効果かもしれない。
「ていうか二人ともいつの間にどうやって来たの」
「さっき、壁を垂直に走ってさ。弟子ちゃん鍵替えた?あれピッキングできなかったんだけど。困るよー」
だからそのために鍵を替えたのだということには思い至らないらしい。どのみち何の意味もなかったわけだが……釈然としない。
むうっと膨れて持参したらしいウーロン茶を『エメトでーす』と書いた紙コップに注ぐ。デフォルメのきいた自画像が添えてあった。結構似てる。
「ね、ユング、さっきからいたよね?」
イルマの背後から何か闇としか言いようのないものが醸し出された。もしかして助手は気づいたうえで口をつぐんでいたのだろうか。だとしたら万死に値する。
ユングの方では闇に気づく様子もなく、生のテッチャンを網に乗せている。はまったらしい。
「さあ……正直、さっきロランさんが喋るまで気づけませんでした。心臓に悪いですぅ」
おお、同志よ!二人はひしと抱き合った。熱い漢の抱擁である。暑苦しいから離れた。日が落ちても暑い、今夜は熱帯夜かもしれない。
『ロランさんは?とうやって来たの』
『そこな政治家先生直々にお姫様抱っこだぜ。聞いてた以上の化けモンだなこいつァ。年甲斐もなくときめいちまったァ、ケツ貸してやってもいいぜ』
もちろんこのセリフは決してロランが誘い受けであることなど示していない。誇張した称賛の一つである。ボルキイ語があまりわからないエメトが「今何て?」とか聞いてくるが、そのまま答えづらい。
しばし逡巡し、こう答えておくことにした。
「エメトさんに抱っこしてもらって来たんだって。話に聞くよりすごいって褒めてたよ」
彼なりに、と口をつぐむ。褒め方がちょっとどころではなく下品だから仕方ない。仕方ないったらない。
焼肉とホルモン焼き肉、つまりノーマルとアブノーマル。永遠のテーマです。