為になる先輩のお話し
先に言っておきます。この章だけ、「2」があるかもしれません。意外に話数を食っているッ……!
「でも、向こうの感知能力、先生ならかいくぐれやしませんか?」
だって協奏があるでしょう、あれで同時に発動してやれば片方にしか対応できなくないですか?ユングの提案も少々難がある。
知っての通り、協奏を使うと個々の魔法の威力自体は落ちるのだ。あまり期待できない。
「あっでも駄目か」イルマが口を開く前にユングは自ら撤回した。「どのみち消具を唱える3分を稼がなくちゃいけないし、先生以外は協奏が使えませんでしたっけ」
消具って3分かかるの?フロストが頷く。へー知らなかった。ししょーは一回だけ使って見せてくれたけど、あの時詠唱してなかったもんな。覚えておこうっと。生きてたら何かの役に立つかも。
「相手がカップラーメンでも待っててくれたらいいんだけどねえ」
オニビの顔が歪んだ。何か思い出したらしい。
「カップラーメンじゃなあ……あの時フロストは七回くらい失敗して俺たち結局一時間以上時間稼ぎと盾させられたからなあ……」
「えぇ」
カップラーメンを箱買いしてもらう必要が出てきた。それどころか肉じゃが作ってもおつりが来そうな時間だ。
フロストは視界の隅で何やら袖をまくって、ユングにどうやら左腕を見せているようだったが心外そうに振り向いた。
「何を言う。正しくは八回だ。しかもそのあと私は怒り狂ったお前ら三人にボロ雑巾にされて被虐趣味の新たな境地へ突入したではないか」
「当然の報いだろ。しかも喜んでただろお前」
悪霊を倒した後、無抵抗とはいえマゾを快感で狂い悶えさせた超人は苦々しく吐き捨てた。この人たちの体力は宇宙につながっているに違いない。
「こちとら死にそうなのにもうすぐ、もうすぐと思って必死でやってたんだぞ。それをお前、『あっごめんごめん失敗したわー。ちょっと心を落ち着けてから唱えなおすからちょっと待ってて~』はないだろ。しかも一瞬『あんな奴のために戦うのか?』とかって悪霊の口車に乗りかけたわ」
きっとフロスト自身に悪気はない。おそらく、前線で苦闘する仲間たちにあまり重大な感じを与えたくなかったのだろう。だが逆効果だったのは事実だからぼこぼこにされたのも仕方ない。
いや、むしろ本望だったかもしれない。
「口車、か。ふっ。オニビよ、あれは口車ではなく当惑からの問いかけもしくは気遣いと言う。以後知りおけ」
「笑ってんなよ誰のせいだよ。いーちゃん電気椅子かなんかない?」
ないと言っておいた。おそらくフロストを喜ばせるだけだし清く正しい魔導相談事務所にそんなものはない方がいいだろう。
確かあれは師が日曜大工で制作した品物のうちの一つだ。他には三角木馬と、人間も伸ばせる本棚と、この三つの試運転に協力してくれた人で作った文庫本のカバーとかランプシェードとかの革製品くらいかな。
「ないってことにしといてあげる。でもいつか出してもらうからねっ」
「あは……オニビさん電気椅子好きだよね」
「火あぶりは飽きたのさ、生前にやりすぎて」
結局のところ、だまし討ちしかないらしいということはわかった。魔力の消費が明日に響くといけないので二人にはお帰りいただく。隅の少女にはそのまま待機してもらった。
ということで夕飯は何のとは言わないがホルモン焼き肉である。
本来馬鹿でかいのだが、肉屋のおじさんがしっかり洗って一口サイズに切って適宜味付けまでしておいてくれたからあとは火を入れた七輪を屋上で囲むだけ。
だけ、と言えば手軽な感じもするが、七輪に火を入れるまでにイルマは納戸から七輪・炭ほか必要な道具を出してこなければならなかった。屋上にポールを四本立てて、裸電球を吊るさねばならなかった。手元が真っ暗になってしまうからだ。
炭を入れた七輪には火の付きやすい新聞紙にマッチで火をつけてねじ込み、七輪の下方の小窓からうちわでぱたぱた風を送ってやる必要がある。ちなみに、ここまでの行程をユングはのんびり眺めていたりする。
今夜が雨の予報ならさらにポールの上からビニールシートをかけなければならなかっただろう。室内なら雨をしのげるじゃないかって?そんなあなたに師の教えをどうぞ。
室内でやると煙が充満してすごいことになるではないか。厳禁だ。以上。
魔力の消費は気にしても、カロリーなどはまったく気にしなかった。
為になりませんでしたね。ええ、よくあることです。