ゴー!作戦会議
ゆるーく本編行きたいと思います。悪霊が出てくるまでは比較的ゆるゆるですよー。
日が暮れたころの朝顔ビルヂングはいつになく賑わっていた。人影は五つ。イルマとユングとフロストとオニビと、あと部屋の隅にじっとしている少女が一人。残念ながら、みな身内である。客はいない。
「50年前にやったことあるんでしょ、悪霊退治。何かない?攻略とかそういうの」
「結論から言って、ない」
「フロストさん……身もふたもないね」
絶賛、作戦会議中である。
悪霊に遭遇した経験のあるうちなぜこの二人なのかというと、契約のあるあと二人は難があるからだ。剣士であるセキショウは本人の性格かもしれないが何の攻略を聞いても、
「オッケーだぜ。何も問題ないぜ。奴が出たらただ斬るんだぜ」
であり、何の参考にもならない。
一番参考になりそうなオフィーリアは戦闘時とチーズケーキ以外に呼び出したら殺すとまで言っている。悪霊と相対する前に死んでしまったのではどうにもならない。
その点フロストはイルマと同じ魔導師で、戦法を真似やすい。ロリコンだからいつ呼び出してもまあまあ対応してくれる。そしてオニビは真人間だ。奇抜なアイデアこそ出ないが堅実な作戦を立てられる。
あと兄のフロイトは悪霊と会ったことがないうえにぼんくらだから聞くだけ無駄と判断した。
「悪霊は毎回能力も性格も全然違うから、私の時の戦法はおそらく通じない。しかし、どんな悪霊――というか相手にも必ず有効打になる魔法ならあるのではないか?」
冷房の風でさらさらとプラチナブロンドが分かれて、白い額がのぞく。そうなんだけどね――イルマは静かに手を上げてその脇を刺した。フロストが背後の壁に突いていた手を離してよろよろと後ずさる。
近いんだよこのロリコン。何で壁ドンだよ。脅迫罪暴行罪だぞ。
「オニビさんはどうして今の止めなかったかな」
「だって俺も娘を叱るときにしたことあるし。普通でしょ?」
顔をしかめて応答の代わりとした。ジェネレーションギャップと言ったか、世代の壁を感じる。刺された脇をさすりながらハァハァ言ってる変態からは性癖の壁を感じる。
「そうなんだけどね、そこに持っていくまでが大変じゃないか」
さりげなく話題を戻した。変態に紙幅を割いてはいられない。
「あまり遠くから準備をしながら近づくと間違いなく気づかれて狙い撃ちだよ。しかも出来立てほやほやの悪霊だから勝手知ったる自分の体で動きも速いだろうし」
悪霊についてはよくわかっていないが、魔力を探知する能力が極めて高いことは知られている。元になった人間が魔法に対して全くの無知でもどのような魔法が出るのかわかるらしい。
一説にはゲームの画面のようにステータスが見えているのだとも言われる。
さらに誤解されがちだが、元になった人間、とはいっても化けるわけではない。魔神が胎内の魔力をその辺の人間の魂にまとわせて、そのうえで軽くチート能力とか魔改造を加えて悪霊化させるのである。
悪霊化するとなぜか悪意に満ち満ちたすてきな人格になって町や村を更地にしながら暴れ回る。
が、コール曰く魂そのものには手を加えていないらしい。あのくらいの悪意は人間だれしも持っていて、力を手に入れたために顕在化しただけなのかもしれない。
肉体にもこれといって改造はされていないため、いつまでたっても喧嘩上等の中身と異なりこちらは順当に年を取る。悪霊化から数十年ほどたつと肉体が老いさらばえて使えなくなってしまう。悪霊は何かの生き物に取りつかないことには真価を発揮しない。
ということで、他の人間もしくは動物の体を乗っ取ってまた暴れる。
多くは千年経つまでに人間の精神が崩壊して自然消滅を迎えるが、まれに数千年の長きにわたり力を蓄えたりするものもあるようだ。ただしどちらにせよ、一番厄介なのは出来立ての悪霊で、数千年のひとは災害っちゃ災害だが割と何とかなる。
いかに動くといってもそれは他人の体、痛覚も鈍く、あまり動作も軽くない。動作が軽いにしても予備動作が大きい。動物の場合も同様である。
さらに長く存在したがために伝承などから対策を練られてしまうことも多い。長生きすればするほど弱点が増えていくのは人間界の動物と同じだ。
話はゆるくて一向に問題ないけど、最近ありんこのお腹がゆるいー……。というわけで季節の変わり目は用心しましょう。