ザ・ヘル
オジーオズボーンの「ヘルレイザー」めっちゃ好きです。だから何かと問われれば特に何もないけどね!
虚勢崩れ以降初の地獄ソロです。生きてるかなー?
悪霊が出るということは、現世に限らず生き物が死後行く冥界でも大ニュースである。
出現してからしか存在に気づけない、というより対応できない人類と違って魔神から「今日の昼から悪霊出しますよ」みたいな打診があるとはいえ、対応がうまく間に合ったためしがない。何といっても人がばたばた死ぬのだ。
天国では死者を一時待たせるためのスペースを確保するために天使がマッハで飛び回る。地獄でも同じようにスペースを取ったり備品を整理したり、ごくまれにだが悪霊が冥界に封じられた場合のための隔離を計画したりする。
悪霊の封印。一応、過去に何例かあるが、この世界の人間は封じるよりその場でぶっ殺してしまうほうが性に合っているらしく、大体は多大な犠牲を払いつつ地上でどうにかされるのだ。
そんなわけでさっそく亡者が届いていた。早くも町が壊滅したのだ。
細かな被害状況はまだよくわかっていない。しかし、ひとまず、運良く助かった人とがれきの下敷きになった人がいることはわかっているから、即死能力を持つ悪霊ではないと思われる。
鬼たちも忙しく立ち働くのが当然だが、「何もするな」と指示されて気分だけ慌てているジールはともかく上官はなぜかのんきにヘッドホンを耳に当てている。
例によってニーチェは虚勢でできた傲岸不遜さを発揮して大わらわの『みらいのしょくば』をゆったり見学していた。
ある意味いつも通りの光景である。
「なあ、お前」上官は内閣府の通信を傍受しているヘッドホンをずらしてニーチェに話しかけた。「育ててたろ、ちっちゃい女の子さ」
それは俺ではなく仮面のほうになると思うけど、と言いたかったが何も言わずに頷いた。仮面が覚えていることは彼も覚えている。どれほど救われたかも、当然。数えてみる。今は14歳になるはずだ。
「今回の悪霊、その子が相手するってよ」
「知っている」
というか予想がついていた。きっと実質的な政権を握っているのは相変わらずエメトだろうし、ということは制度も公式非公式関係なく見直されていないだろうから、中学生でも駆り出されることだろう。
ごく自然な流れだ、とは言わなかった。
「他にいないだろうから」
「心配じゃねーのか?」
何と答えたものだろうか。ニーチェは言葉に迷ってはにかんだ。
心配していないわけはない。悪霊のために、そこの亡者の列にイルマが加わらないことを心から願っている。それは間違いない。よくわからない自己だが、それだけはわかる。
しかしだからといって、どうにかして人間界に出て助けてやらねばならないとか、エメトにこんこんと道理を解いてやめさせねばならないとか、そういうことは思わないのだ。まあ後者はどう考えても徒労に終わるだろうからなしとして。
が、それでも自分が動こうとは思わない。冷たいと言われても仕方がない。
では仮面ならまた違うだろうか、とも考えてみる。答は「NO」だ。仮面にしてもニーチェにしても、さほど心配はしていないのだ。
上官の視線がずっと顔に注いでいる。綺麗な目だ。わずかに目をそらす。
「死にはすまいよ……」
今度吸い込んだ空気は、建物の木の匂いがした。
あのギター最高……。