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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
マン・フィッチ・ワズ・ラッフィン
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27

 一撃で決める。

 そう決めていた。そもそも、ラスプーチンただ一人にしか使えない逆回復魔法の対策はまるで練られていない。考えてみた人もいたはずだがその人は首を吊ったらしい。

 つまり防ぐ方法も避ける方法もないのだ。はまれば、とか成功すれば、とか当たれば、ではない。『必ず』はまるし成功するし当たるのだ。

 そのはずだった。

「あなたの逆回復魔法は」

 食らったはずの赤鬼が平気な顔で立ち上がる。一撃で決まらなかったわけだ。とっさに状況が呑み込めなくて脳が空転する。

「防ぐことも、避けることも確かにできません。ほんのわずかな魔力でもって魔力を循環させているラムダ系そのものに干渉する魔法ですから、魔法でも物理でも太刀打ちできません、ええ」

 肩口に何か刺さった。上空に具現化していた刃のようなものが落ちてきたのだ。このくらいならすぐに治せる。治せるが、今は赤鬼の言葉に意識が引き付けられて対応が鈍る。

「でもね、『食らった後なら』太刀打ち、できるんですよ」

「ぐ……!?」

 二本目だった。いつ具現化していたのだろう?大気中に発散された魔力からして、具現化が使われたのは一度だけのはずだ、なぜ……考えるうちに三本、四本と増えてゆく。再生のスピードがぎりぎり追いつく。

「食らって、ラムダ系が回りだす瞬間に消具を使うんです。異常な動きをしている部分にね。ラムダ系は多少ダメージを受けるけど、計算上問題ありません」

「ちょ、ちょっと待ってよ……じゃあ今、君は……ッ!」

 五本目だった。どうにかその場を離れるが、逃げた先にも落ちてくる。とっさに火の玉を撃って防いだ。同じように赤鬼にも撃ったはずだが、盾の魔法に阻まれて届かない。まるでそこに来るのが最初から分かっていたかのように展開されている。

 やはり、天性のものか。

「ええ、持っていかれましたよ、寿命」

 でもそれがどうかしましたか?その指先に、わずかに魔法陣が見えた。光も音もまるでない。ただでさえ省エネルギーな具現化がさらに無駄を削ってエコに、魔力をほとんど消費していない。感知できないのはそういうことか。

「過去の記録があったので計算しました。食らってから20秒以内ならせいぜい10年前後ですから、ただちに健康に影響はないはずです」

 ご心配なく、と笑う。ほめて?と聞こえてきそうだ。しばらくぶりに恐怖を覚えた。あいつと同じだ。死にたくないとこれっぽちも思ってない。

 逆回復魔法というものはきっと使うまでが花だ、と思う。誰しもが老いが恐ろしく、死を恐れる。でなくては逆回復の意味がない。寿命などこれっぽちもやるものか、そう思っていてくれないといけないのだ。

 命を率先して捨てられるような相手には、牽制としてあまり効果がない。そればかりか使っても食らう覚悟なら辛うじて防ぐことができるらしい。

 もしかしたら魔法全般にそれが言えるかもしれない。それどころか武器の類にも。『持っている』だけで『痛み』を予感させ、相手の動きを鈍らせる。ラリった馬鹿にフリーズが効かないのと同じだ。

「で、でもそう何度もは」

「ええ、何度もは耐えられないかもしれないですね。だから、競争しましょう?俺の寿命が吸い尽くされるかラムダ系がめちゃくちゃになるのが早いか、あなたが死ぬのが早いか、ね」

 言うが早いか、刃の雨が密度を増す。避けられるはずだった。方法は20通り近く脳裏に描かれたが、ラスプーチンはその場を動かなかった。

 子供一人うまく育てることもできず、過ちを正すことすらかなわない。絶望の感覚は、あの革命ですら与えられなかった大波となり彼を覆ったのだ。

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