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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
マン・フィッチ・ワズ・ラッフィン
205/398

25

「またか……」

 ビニール袋で包まれた死体が運ばれていくのを見て、ラスプーチンは呻いた。

 両目をくりぬかれた死体。去年の十月から、これで何体目だろうか。魔力残渣は検出されず、多くは一撃で絶命している。

 犯人はまだ捕まっていないが、といって予想されるような複雑なトリックや変わった手法はどこにも使われていない。ただ単純に証拠が残らないように殺して捨ててきただけである。

 目玉をくりぬいたことは失われた眼球と傷ついた眼窩からうかがえた。異常者による犯罪だと世間でも騒がれ、毎日のように報道されてもいる、有名な連続殺人事件である。

 で、今聞かされたところではこれが4件目。側溝から発見ね。たぶん撲殺ね。そこまではわかる。

「でも何でおいらを呼び出したのさぁ……」

 仕方ないでしょ、と刑事はラスプーチンをさらに招いた。その先は……取調室?ますます解せない。カツ丼でもおごってくれるのかな?そんなわけもない。

「もしかしておいら疑われてる?」

「いいえ、あなたじゃありません。あなたに聞きたいのは犯人について、です」

 目を見張る。スチールの机に、ひらりと写真が突き出された。この人を知っていますね?という定型句が遠く響く。ああ、どうして?どうしてこんなところで、この顔を見る?

「被害者の身辺を洗ったところ、浮上しました」

「そんな……ありえない。管理はそんなに甘くない。そもそも、被害者って性別も年齢も職業もばらばらだったんでしょ?住所だって、たまたま帝都にいただけの、別のところのひともいるんでしょ、何で」

「一件目は」立ち上がりそうになったラスプーチンを押しとどめるようにして、刑事は続けた。「四十代前半、ジフェ町在住の女性会社員、でしたね」

「ああ、間違いないね」

 彼女は『彼の』母親だ。『彼自身』悲しんでいたからよく覚えている。

「二件目は単身赴任中の男性教師。三件目は政治家で、この四件目は中学生です」

 わかりますね、と重々しくため息をついて、写真を指す。ラスプーチンはすでに真っ青だった。あの子はそんなことをする子じゃない。わかってるはずだ。ずっと見ていたはずなんだ。

「で……でも!『彼と』関係あるのはその一件目だけじゃないか!他は、他は何にも」

「本当にそうですか?二件目の教師は『彼の』担任に三年連続なっていたようですよ。今回の被害者も『彼の』クラスメートで、とくに仲がいいということですが」

 二の句が継げなかった。そういえば、知らない。交友関係、学校での様子、何も知らない。せいぜい生徒会長になったからちょっと仕事を減らしてくれと頼まれたくらいだ。他はまったく……何が管理は甘くない、だ。全然知らないじゃないか。

「だ、だとしても、大臣は!一度仕事で一緒に行動しただけじゃないか!何の関係もないよね!?」

 それがあるのですよ。机の上に、何かのコピーの白黒の紙が二枚突き出された。裏と表らしい。読み慣れたコルヌタ語で、図解付きで初心者にも分かりやすく書いてあるはずなのにまったく意味がわからない。

 わかりたくない。

「鑑定の結果です。『彼とは』血のつながりがあったようですね。しかも実の父親です。『彼は』隠し子だったというわけですね」

 相手にそんな意図はないはずだが無理やり理解させられ、思わず呻く。脳天をメイスで振り抜かれたみたいだ。

 ずるずると知識が脳内の引き出しからあふれて散乱する。そういえば、赤鬼の父親は誰かわからなかったっけ。そういえば、どういうわけか赤鬼は大臣に懐いていたっけ……大臣が彼に父として名乗り出た?

 その可能性はまずありえないと思う。しかし血は水よりも濃いともいう、互いに何となく察したということもありうる。

「いずれの場合も、被害者の眼球が見つかっていません。犯人の部屋にあると我々は見ています。もちろん相手は未成年ですから実名も新聞に載りません……よろしいですね?」

「……」

 何とかして拒否しなければならないはずなのに、信じなければならないのに、もう首を横には振れなかった。あの子は何をしてしまったのだろう。答えの出た問いがぐるぐると頭の中を泳ぎ回る。

 物静かなまじめな少年は、なかなか世間を震え上がらせるような殺人鬼にはなってくれないのだった。

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