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もうそろそろこの鬱回ともおさらばできるということで振り返ります。何だか出来が思ったのと違いました。サスペンス書ける人ってすごいと思います。
「何もない部屋だな、生徒会長さんよぉ。机と椅子とベッドだけかよ、寝て起きて勉強できりゃいいってか?さすが優等生は言うことが違うな」
赤鬼の部屋に来たクラスメイト、カミュはさっそく憎まれ口を叩いた。そもそも軍の基地内で、来客など本来許されていないのだが、珍しく許可が出たというのだ。当然行かない道理はない。
「クローゼットと壁と床と天井があるだろうが。無駄がなく片付いていると言ってくれ。これ以上、他にどんな家具を置くんだ?」
どんなって。返答に困り、カミュはとりあえずカバンをそこに放り出した。金具とフローリングがぶつかり合ってがちゃがちゃと耳障りな音を立てる。
「絨毯、とか」
言ってから、直にフローリングに触れるのは寒いしべたべたするからとても素敵な考えださすが俺と思ったのだが、赤鬼は顔をしかめて首をプルプルと振った。
「ダニが出そうで怖い」
「お前はババアか」
「この部屋は換気が悪いんだぞ。そら、窓が一つしかないだろう。わざわざ埃を立てられるか」
「そうかよ……本棚とかは?お前、本好きだろ」
何でなかったんだったかな。パッと出てこないので赤鬼はカバンを放り出してベッドに腰を下ろした。思い出せないということは大したことでもないんだろう。
「学校で借りられるだろう、そのくらい。で、カバンに入れたままにしておけばなくしもしない」
三日くらいで読み終えるから買ったほうがもったいない。言い切る赤鬼に鼻のしわを寄せる。物を大事に持っておこうとかそういう習慣がないのかこいつには。
「テレビとかは?」
「食堂になんちゃってカラーテレビがあるぞ。三色にグラデーションした下敷きが貼ってあるやつだ」
それはカラーテレビって言わない。ここは戦前か。
他の家具は必要ない!みたいな顔をして胸を張る赤鬼にムッとしつつ他に足りないと感じそうな家具を探す。会長さんよ、わびさびの意味を間違えてるぜ。それをこれから教えてやる!
「あ、あろ」
「何だ?」
「アロマランプ……とか」
ぶふっと破裂音がした。かーっと顔に血が昇る。足りない足りないと思うのに、いざ探してみると思い出せないものだ。アロマ!アロマか!あははははは!傑作だ!広くもない部屋に赤鬼の哄笑が響き渡る。すいませんでしたーと心にもない言葉を吐いて別の物を探す。
机の下に何かのガラス瓶が無造作に置いてあった。蹴ったら割れそうである。
「なあ、棚がいるんじゃないか?」
赤鬼はまだじたじたと足踏みして笑い転げている。
「た、棚?何を入れるんだ?」
何って。瓶を床に転がしておくのは危ないじゃないか。無造作に机の下にかがんで、瓶を抱える。思ったより大きいな。それに重い。液体が満たされているような……生徒会長め、さてはこっそり梅酒か何か作ってんだな。どれ、口止め料代わりにいただいてやるか。
梅酒だと思ったのは、褐色透明の液体の中に入っているいくつかの球体のためだ。その球体が何であるかを確認する前に後頭部に衝撃が来て、カミュの意識は弾けて消えた。