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ついに200話突破しました!皆様のご愛顧に感謝して、いえーい。
「……えっと」
新学期早々、高校の講堂――つまり広いほう――の、舞台の袖にいた。目の前には、でんと腕を組んだ同級生が突っ立っている。
中学一年生から高校三年生までを詰め込んだ講堂は満員だ。それもそのはず、夏休みが明けて今日は生徒会選挙の日である。本当なら赤鬼は、自分のクラスの列に並んで座っているはずだ。
どうしてここにいるのだろう。首をかしげていたら、相手がおい、と名前を呼んだ。びくっと背筋が跳ね上がる。
「お前は生徒会長に立候補するんだよ。わかったか?」
いやするんだよとか言われましても。何で決定事項みたいになってるんだよ。わかるかよ。
文句を垂れたい赤鬼だが、目的が殺しの時を除いてほとんど同年代と話したことがない。舌が震えて縮こまるだけで言葉が出てこない。
「あ……」
「お前、素の自分だと喋りにくいんだろ?だから肩書きをやる。風紀委員長としてならいけるだろ?」
喋りにくいというよりは喋れないのだが、喋れないから何も言えない。質問など投げかけられたら吐きそうだ。
「あのさ、お前暗いんだよ」うっ。何かが胸に深々と刺さった。面と向かって暴言を吐かれるのはだいぶ久しぶりである。
「考えてもみろよ、中学生活なんて今しかできないんだぜ?それをみすみす教室の片隅で勉強だけしてトイレで飯食って過ごすのかよ。そりゃあまずいだろ。トイレで食う飯はまずいだろ。人間関係とかいろいろ磨いとかないといけねーもんがあるだろうがよ」
「……」
トイレ飯は強調しなくていいと思う。
「得意のだんまりか。まあ舞台で演説さえしてくれりゃあいいんだけどよ……。いいか?俺はお前に期待してるんだ。お前は、勉強ができて、滅んだはずの王家の血を引いてて、世界でただ一人具現化の魔法を使えて、甲種の魔導師で、公務員なんだろ?それぞれが別の誰かだったりしねーだろ?そんなすげーやつが隅っこで冴えねー顔してちっちゃくなってんのはおかしいと思わねーのか、ええ?」
「……はあ、」
「おかしいだろ?絶対おかしいだろ?お前の態度は寧ろ、勉強はできねー、家が普通だ、魔法とか凡百、無資格無経験中二病の奴らはもっとちっちゃくなっとけうぜえんだよトイレですら飯食っていい場所じゃねーよ豚小屋に行けって言ってるようなもんなんだよ」
「……ち、違う」
思ってないこともないかもしれないが、そんなに無差別に悪意を向けていないはずだ。あとどうしてそんなにトイレ飯を強調するのかわからない。
「違うなら胸を張りやがれ。偉そうにしろ。惨めなんだよ。とはいえこれまでちっちゃくなってた奴がいきなりでかい顔しやがったら腹が立つからな。偉そうにするんなら相応の立場がいるだろう。だから生徒会長になりやがれ。いいな」
赤鬼はぼーっと相手のかなり色黒な顔を眺めていた。確か同じクラスの男子生徒だと思うが、名前を覚えていないから誰かわからない。どうして目をそらさないのだろう。例によってすべての言葉が悪いほうに聞こえる状態だが、彼の言い方ではこれ以上悪くなりようがないから誤解はしていない。
いつかのように深く息を吸い込んだ。
「わかった」
「ん。いい度胸だ」してやったりと笑みを浮かべて、彼はどこからか紙の束を取り出した。「台本、一応用意したけどどうする?」
「要らん。思うことをそのまま口にすればいいのだろう?そこにいる低能どもには生徒手帳だけで十分だ。無駄な手間だったな」
そうそう、やればできる。なんとかなるさ。顔が勝手に不敵な笑みを作っていく。
「言うねえ。しかしお前って素はそんななんだな、初めて知ったぜ」
「俺もだ」
舞台のほうを見やる。出番はもうひとつふたつ先のようだ。例の男子生徒がまだ何か言っている。
緊張?どうして?愚民に説教を垂れてやることの何がそんなに難しい?当然の行動ではないか。観客はカボチャだと思え?そんなこと言っていいのか?カボチャに失礼だぞ。




