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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
マン・フィッチ・ワズ・ラッフィン
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19

「護衛が寝ちゃダメじゃないか」

「すみません」

 赤鬼が目覚めたらホテルのベッドだった。やらしいほうのではない。ラスプーチンはすぐに起こそうとしたのだが、大臣が止めたので自然に起きるまで胃の痛む放置プレイを楽しめた。

 忘れがちだが大臣の護衛は赤鬼とラスプーチンの二人きりである。厳密には周辺の警戒に当たっている人員がいるのだが、移動中などに大臣のすぐ近くにいて有事の際護衛として機能するのはたった二人なのだ。甲種魔導師二人、なるほど安心安全なイメージである。

 で、さっきまで、安心安全な護衛の片方は眠りこけたうえ、護衛中の大臣に抱っこされてホテルの部屋に上がり、果てはベッドに寝かせられていた、と。

「今度からもっと早く起きます」

「……おいらは今、仕事中にぐーすか寝たことについて叱ったんだけど。ハゲなの?ズラなの?」

「地毛です」

 まあいいや。真面目な顔をしている赤鬼もかわいそうだし、まだ子供だし、一日移動続きで疲れただろうから。説教は切り上げて大臣の顔を仰ぐ。

「……なに?」

 自分のほうへ向けられた視線に露骨に戸惑いを見せる彼は、まさか敏腕とあだ名される新進気鋭の政治家とは思えない。金色の眉をㇵの字にして、ラベンダーの双眸が落ち着かなげに泳ぐ。

「僕、何かしたかな?」

「何もしてないことが叱られる原因の時もあります、大臣。してないことを考えたほうがいいかと」

 よし赤鬼よく言った。握りしめすぎて血管の浮いた拳をそっと隠す。もうすぐこの拳が国の顔の顔をジャストミートするところであった。それどころかラッシュを浴びせていたかもしれない。

 国の顔の顔くらいならぐちゃっとなってもいいかなと思うが、国の顔に泥を塗る事態は避けたい。

「えーと……そうだ!この前、建築会社の社長さんに貸してもらったお金、特に使う用ないからって放置して、返すの忘れてた!秘書に電話しなきゃ!」

 ラスプーチンは大きく振りかぶって護衛対象に殴り掛かった。

 こいつは、こいつは。賄賂だろ、それ。何で気づかない。何で別の不祥事が浮かび上がってくるんだ。ていうか電話なんて、外国から掛けて会話を拾われたらどうする気だ。国の名に泥を塗る気か。ぱあん、とヒトの皮膚がぶつかり合う音がする。

 両足が床から浮いた。三半規管があり得ない動きに大揺れする。ああ、殴りかかった拳を誰かに取られて投げられたんだなと理解するより先に、ホテルの豪華な絨毯に背中から叩き付けられた。

 ふわふわの絨毯とばかり思っていたが、それだけではなく毛の下にクッションでも入っていたのだろう、衝撃が和らぐ。赤鬼が大真面目な顔をしてこっちを見ているから、すっと視線を外した。

 いくらなんでも、中学生に捕まって無力化されるようなやわな拳ではなかったと思うが……。

「護衛中に護衛対象を殴っちゃダメです、ラスプーチン」

「今度からもっと早く殴るよ、ついてくんな」

「それは困ります。俺、禿げます」

「ハゲ散らかしちゃえ……そろそろ手を離せよ。痛いよ」

 一方の大臣は「すごーい今のどうやったの?」と拍手をしていた。危機感がないというかなんというか、邪気がなさすぎるというか何というか。政界ってもっとダーティーな世界じゃなかったっけ?何でこいつは生き残れているんだ?世界七不思議に数えていいと思うぞ。

 暗殺だって30年前から沈静化したとはいえ横行しているというのに。良くも悪くも憎めないということだろうか?今めちゃくちゃ憎しみが沸いたけど?

「こうして、こうして、こうです」

「うわ、今飛んだ!アイムフライング!」

 だから、護衛対象をゆっくり投げている赤鬼を注意しなかった。子犬を猛獣の檻に放り込んだようなものだが、赤鬼だって子供だ。多少のじゃれあいは必要だろう。

 そういえば、あいつが笑った顔を見たことがないな。

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