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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
マン・フィッチ・ワズ・ラッフィン
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17

 回想編が終わったら元の更新速度に戻したいと思います。したいかなー、って。

 早くも腐敗を始めた死体を、当初の予定通りコンクリートにしたのは名ばかりの終業式が終わってからだった。

 こんなもの、出る意味があるのだろうか。このあとも昼まで講習が続いて、夏休みは実質一週間である。盆休みと言った方が近いかもしれない。始業式は一応九月なのだが、講習は盆明けの18日から始まる。

 廃工場が黴臭い。湿度が高いからさもありなんといえばそうだが、死体の腐臭ならともかく黴の臭いに悩まされるとは思わなかった。

 掃除はやめた方がいいか。場所が場所だから清潔になったらかえって怪しい。こんなおあつらえ向きの場所を変えるのも辛いだろう。冷静になってみると季節を考えて殺るべきだったのではないだろうか。

 中高生にお決まりの部活動は「帰宅部」である。つまり部活をしていないということだが、体育の授業のたびに体育会系クラブの顧問に声をかけられる。単に彼が体育の授業も受け持っているということだが、うっとうしくてたまらない。

 君にはスポーツマンになれるだけの素質がある?ネクロフィリア系殺人犯がスポーツマンでたまるか愚か者。大体、そうなら自分が持っている部活以外も勧めるべきだろう。いまだにお前からサッカー以外の勧誘をされたことがないぞ。

 そういえばあの教師はサッカー部の顧問なんだっけか。思考がループを始める。

 体育会系の部活は嫌いだ。脳みそ空っぽな連中とつるむ意義が分からない。腕っぷしが強くて頭が空っぽなんて、トロールと何が違うのか。

 健全な魂は健全な精神と健全な肉体にのみ宿る?健全な肉体の持ち主が健全な精神を宿しているケースがまず稀有なんだが?魂が健全でどうなるんだ?そもそも誤用だということを指摘した方がいいのだろうか。

 正しくは健全な魂は健全な精神と健全な肉体に宿れかし。宿るといいな、だ。宿ってないから言われているんだ。いい加減理解するだけの脳みそは搭載しろ。

 自伝を書いてみてはどうかと担任に勧められた。何を書けと言うんだ。

「えっ……自分のことだけど」

「つまり捨てられた話とか、母親の交際相手に殺されかけた話を?」

 国語の男性教師は我が意を得たりと頷いて、はっと気づいたように黙り込んだ。遅い。皆、人の不幸がおいしいのだ。確かにエッセイの大賞に選ばれているものには身内の不幸と身体障碍の話が多い。虐待も加えるか?

 誰も彼も考えることは同じだ。ドラマだって演劇だって、優しくて美人なヒロインが死ねば泣ける話にできる。

「不幸な話は泣けるから点数が高いってことですか?」

「……そうじゃなくて」何が違うんだ。「君は逃げなかったじゃないか。ずっと耐えてきたじゃないか。逆境にも逃げずに立ち向かったじゃないか」

「立ち向かう以外の方法をとれない愚か者だっただけの話です。逃げればよかったし隠れればよかったしわざわざ立ち向かう必要などどこにもない。っていうかいっそ死んでいればよかった。ゴミが成りばかり大きくなったところでゴミに変わりはありませんから」

「そんな言い方は……」

「じゃあどんな言い方をすればいいですか?」

 もう行きますね、とカバンを掴んで講習後の教室を立ち去る。何でまた当たってしまったのだろう。あまり開かない口を開くとこれだ。単に彼は自分の利益に向けて動いているだけなのに。止める権利など、誰にもないのに。

 まして自分などに何の権利があったというのか。いまだ人間として認められることもない自分に何を期待した。もう期待はしないって何度も何度も何度も何度も何度も、でもそのたびに期待していたのも事実で、だから、何度も何度も同じことを繰り返す。

「……弱い、な」

 これじゃダメだ。もっと、もっと強く自分を持たないと。誰にも期待しなくて済むように。自分にも他人にも。寂しいなんて感情はとっくの昔に捨てただろう?どうせ誰にも認められはしないのだから、いっそ自分から遠ざけてしまおう。

 そんなのは嫌だ。まだ間に合うから、今から踵を返して戻ろう。先生に謝って、勧められた通り自伝でも書いてみよう。だって国語は好きなんだ。どうせなんて言わないで、もう少しだけ、もう少しでいいから頑張ってみよう。ここで引いたら全部おしまいだ、戻ろう、戻って謝ろう、赤鬼。

「黙れ」

 刺すような言葉で剥離した自分の口を塞いで、帰ってきた部屋に一人、座り込む。冷たいフローリングは染みついた感覚だ。本はない。燃やしたからだ。

 趣味はない。これまでもなかったし、今更になって作ってみたところで、誰もこっちを見てはくれないだろう。ただ上を目指すことが一番大切だ。

 でも何だろう。とても寒い。

 さーて本編書き溜めねば……。

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