09
鬱系の話を書いていると、書く側の精神もそっちへ寄って行ってしまうものなのでしょうか。最近気分が沈みます。やる気は出ないし授業は眠いし髪の毛は痛むし関節は痛いし部屋は何だかかび臭いのです。
あれ、もしかして梅雨のせい?
「式典ですか?」
「そう式典」ラスプーチンはできる限り赤鬼の顔を見ないようにして言った。「革命の記念日にさ、正装で並んだり名前呼ばれたりするんだ」
少年は声変わりを済ませていた。通りの良い、甘くて深い声。女顔はそのままで詰襟の学生服はあまり似合わない。セーラー服なら似合うだろうってこともないか。筋肉もつくべきところにはついているし。
「でさ、君って人目を惹きそうだから出てほしいんだよね。フローレスのばーさんがやめて今じじいばっかりだから」
「母に相談してみます」
そう言って塾があるからと彼は学生カバンを持ち上げた。また、このあと塾があるんです、だ。変わらない。部屋を出ていくのを見送った。
母親は教育ママとでもいうのか、どちらにせよラスプーチンにはわからないが徹底的な詰め込み教育を赤鬼に課している。それ以上詰めたら頭がカチンコチンになるぞと思わせるくらい。しかし赤鬼は赤鬼で詰め込まれたあれやこれを自家薬籠中のものとしており、自在に使いこなす。
何かおかしいと思って検査してみたら、彼は集中して見たものを映像で記憶して忘れないことが分かった。決してではない。しばらくしたら忘れる。だが忘れるまでは、完全な映像を記憶する。
さらに、たった一度の「成功した時」の感覚も絶対に忘れない。あとで思い返して分析できる。体もかなり無理がきく。
若いからの一言では片づけられないほどに。つまり彼の目の前で拳法の型など披露した日には数日後にマスターされるのだ。
なにこれ。もう化け物かと。
それが具現の魔法を独学で会得しえた理由でもあり、短期間でいくつもの魔法をマスターした理由でもあった。
もし異世界に転生できるならチート能力とかよりこういう地味な能力の方がいるかもしれない。一番の恐怖はここまで規格外の能力値を持っていて彼にそれを誇る素振りがないことだ。
「中学一年生だもんね、表彰したら天狗になっちゃ……わないか」
本人のあずかり知らぬところでだが、赤鬼は魔導師として国に表彰されることが決まった。
反撃が始まりましたね。これからは赤鬼の時代です。